4-32【ミーティア潜入作戦1】



◇ミーティア潜入作戦1◇


 半月前……【リードンセルク王国】【ステラダ】の街……クロスヴァーデン家の一室――ミーティアの部屋に呼び出されたのは、ジルリーネ・ランドグリーズだった。

 エルフ族の王女にして、自由騎士。

 そしてミーティアの専属護衛である。


「遅かったわね。ジルリーネ、お仕事は?」


おおむね終わりました。あとはジェイルが引きいでくれます……」


「そう。なら……はい、座って」


 ミーティアに急かされ、ジルリーネは座る。


「ど、どうしたのですか?お嬢様……そんな剣幕けんまくで」


 あの日、露店でミオからリボンをプレゼントされた日。

 それ以降、ミーティアは気が気ではなかったのだ。

 「また直ぐに会える」ミオにそう言われて、ミーティアはずっと考えていた。

 そして辿たどり着いた。一つの考えに。


「いいから座って?」


「は、はい」

(笑顔が怖い……あと、もう座っています、お嬢様)


 ミーティアは、クラウが冒険者学校に通う事を知っている。

 それに尽力していたのが、ジルリーネだという事も知っている。

 ならば……ミオのあの言葉も、クラウ関連だと考えればいい。

 クラウはおのずと【ステラダ】に来るのだ。

 そこにミオも一緒だと考えれば?


「ミオも、冒険者学校に行くのね?」


「――どうしてですか?わたしはなにも……言っていませんが」


誤魔化ごまかさないでいいわ、ジルリーネ。もう確信を持っているの……だから、答えだけを頂戴……それでも誤魔化ごまかすなら、私にも考えがあるから」


「――うっ!」


 このジルリーネも、ミーティアには弱かった。

 産まれた頃から知っているお嬢様……夢を持ち、自分の信念をつらぬこうとする少女。


「……むむ……お嬢様、本気ですね?」


「当然よ」


 ジルリーネは、誤魔化ごまかす事をあきらめた。


「分かりました。お話……します」

(この子は頑固がんこだもの……頭がいい分、余計に厄介やっかいだ……)


 だからジルリーネは白状した。

 クラウの卒業と一緒に、ミオも【ステラダ】の冒険者学校に通う事、寄宿舎きしゅくしゃに入り、三年間【ステラダ】で過ごすことを。


 計画としては、ミオがこちらに来た最初の休みに、ミーティアに会いに来る予定だったのだ。

 だが、そのサプライズは完全についえた。


「……」


 嫌な予感しかしなかったジルリーネ。

 この子は、考え事をすると髪をクルクルと回すくせがある。

 大概たいがい、その時は突飛な事を言いだすのだ。


「……」


 バッ――!と、突然立ち上がり。

 おもむろに、自分の机をあさりだすミーティア。


「お、お嬢様……?」


 もうダメだ、完全に何かをたくらんでいる。

 学校を卒業し、自由になったミーティアは、自分で金を稼ぐ事まで始めている。

 まだ小さく利益りえきもほとんどないが、事業は事業なのだ。


「――あった!【幻夢の腕輪】」


 机の中から出て来たそのブツに、ジルリーネは驚愕きょうがくする。


「なっ!!お、お嬢様……!!まさか――」


 その腕輪は、昔ジルリーネがプレゼントした魔法の腕輪だった。

 エルフ族の王家に伝わる……伝説級のアイテムなのだが。

 その効果は――魔法による、身体変化だ。

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