4-31【いや無理だって!!】



◇いや無理だって!!◇


 脱衣室の扉を開けると、そこに同居人……トレイダ・スタイニーの姿は無かった。


 しかし、代わりに現れたのは……覚えのある青い髪、青い瞳。

 スラッとした身体に実る二つのふくよかな乳房。

 張りのある肌には、まだ水滴がしたたっていて……とても煽情的せんじょうてきで……なまめかしい。


 俺の目の前に現れたのは、トレイダ・スタイニーではなく。

 全裸の……美しい裸体をあらわにした――ミーティア・クロスヴァーデンだったのだ。


「は?」


「き」


 き……?

 あ!!そういう事か!!


「――ごめんっ!」


 バタン――!!と、いきおい良く扉を閉めて、俺は叫んだ。


「――む、【無限むげん】!!」


 扉に向かって、防音性の数値を一気に上昇させた。

 だってもうさ、これ悲鳴確定じゃん。

 あの赤面の後の「き」……なんて、「きゃああああ」しかないって。


 ここは男性寮ですよ……悲鳴が聞こえて、その場に全裸の美女がいたらどうなりますか?お答えください……はい正解。逮捕です。


「―――――――――――――――!!」


 音にはならないが、絶対に「きゃああああ」って悲鳴が上がっていることだろう。

 しかし……こんな冷静な脳内処理、出来ると思うかい?


 出来る訳ねぇだろ!!


「……ど、どど、どうしてミーティアが俺たちの部屋に……!?」


 それよりも、トレイダは何処どこに行ったんだよ!!

 俺は少し冷静になって(なってない)、部屋に戻る。


 トレイダの荷物は普通にあるし、着替えもある。

 得物えものであろう弓もある。

 本人がいないだけだ。


「お、おお、落ち着け、冷静になれ……見間違いかもしれない!」


 だが……あの姿はどう見ても。

 思い出して……生唾ものだ。

 初めて出会った、あの時よりも……大きいっ!!


「――やっぱり、ミーティアだよなぁぁぁぁぁ!!」


 俺は頭をかかえて、混乱を形にする。

 しばらく時間がち、俺がちらりと脱衣所を見ると、ソロ~ッと扉が開いた。

 一瞬ドキリとしたが、そこから出てきたのは……トレイダだった。


「……はい?」


 トレイダはゆっくりと俺の方にやって来ると、湯上りの髪をタオルで拭きながら俺に言う。

 何事もなかったかのように。


「……やあミオ。いいお湯だったよ、君も入るといい」


「あ……うん」


 無になりながら、俺は脱衣所に。

 鏡の前に辿たどり着き、冷静に自分の顔を見る。


 そして。


「いや――無理だってえええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 バン――!!と、扉を叩きつけるように開けて、トレイダの前に仁王立ちする。


「な、なにかな?」


 顔をらしながら、トレイダは髪を拭いていた。

 ああそうだね。女性の仕草しぐさだ……なんでこの数日で気付かなかったんだよ、俺は。


「……ミーティアだろ?」


「――な、何の事だい?ぼ、僕はトレイダ……トレイダ・スタイニーだよ?」


 ほう……しらを切るのか。


「あくまで男だと?」


「も、勿論もちろんさ。どこをどう見ても、立派な男子だよっ」


 そうか、なら俺にも考えがある。


「――よし。それならもう一度、風呂に入ろう!」


「――え!?」


「いいだろ、裸の付き合いって言うんだ……東の国であるらしいぞ?一緒に入って親睦を深めようって事さっ!さ、ほらっ!」


 俺はトレイダの細い手首をつかんで、立ち上がらせる。

 見慣れない腕輪が付いていた……かすかだけど魔力を感じるな。


「わっ」


 立たせれば……うん。やはり男だ。

 細い身体、背の低い中性的な少年……男だよ。


「いいだろ?トレイダ、男同士なんだからさっ」


「い、いや……僕はもう入ったし」


「いいじゃないか」


 俺はそう言いながら、脱ぎ始める。


 バッ――!と一気に上を脱いで、きたえ――てはいないが細マッチョの身体をさらした。


「――わっ!ミオっ!!」


「なんだよトレイダ、ほら見てくれ、腹筋が割れてるんだ」


「いや……ちょっと、まって!」


 あせっておるあせっておる。

 ほら、正体見せろ!

 いっその事、俺は下も脱ごうと手を掛ける……すると、とうとう。


「――ご、ごめんなさーーーーーーい!!」


 そう叫んで、緑の髪の少年……トレイダ。

 いや、ミーティア・クロスヴァーデンは……自供を始めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る