4-23【最後の準備】



◇最後の準備◇


 もうすぐ……一ヶ月だ。言っただろ?あっと言う間さ。

 あと数日で、クラウ姉さんの卒業……つまり、俺の卒業でもある。


 ここ数日で、俺は父さんから冒険者学校にいくための資金を貰った。

 「こんながくを?」と、麻袋に入れられた金に驚愕きょうがくする俺。

 その袋が二つ……俺とクラウ姉さんの分だ。


 聞いてみると、やっぱりジルさんらしい。

 この金は勿論もちろんスクルーズ家の自費だが、三年間でかかる費用などを、ジルさんが父さんと母さんに教えてくれていたんだとさ。


 初めはさ、ジルさんが出すと言ってくれたらしいんだ。

 自分が言い出した事だから……と。

 でも父さんは速攻で断った。そこはカッコいいよ。

 そこは、やっぱり親だった。

 「子供が心配する事じゃない」と、俺の言葉を突っぱねて、父さんも母さんも、笑ってくれた。だから……思い切って甘えることにしたよ。


 卒業の前日、ささやかだけどお別れのパーティーが開かれた。

 スクルーズ家の皆、近所の人たち、ディンさんや自警団の人までいたな。

 アイズなんか人一倍飲み食いしてたから。


 人、増えたよな……この村。


 でもそこに、アイシアはいなかったんだ。

 気にはなったけど、それを言い出したらせっかくのパーティーの熱が冷めてしまう。


 だから最後の日……旅立ちの日――アイシアが見送りに来なかった事に。

 俺は素直に、ショックを受けたんだ。





「……クラウ、しっかりやるんだぞ?」


「分かってる。近いからっ!!」


 抱きつこうとする父さんを、クラウ姉さんは全拒否する。

 せめてハグくらいしてあげてくれよ。


 俺も、しっかり挨拶あいさつしておかないとな。


「父さん、長い休みの時は帰って来るよ。村がどれほど変わるか、確かめるからね?」


「は、はは……これは失敗できないな。ミオも……しっかり勉強するんだぞ?」


「うん。俺は俺のために……頑張るよ」


 そうだ、俺は……この村に帰って来る。

 だってそうだろ?こんなド田舎でも、自分で発展させれば田舎じゃ無くなる。

 俺はそれが楽しかったんだ。


 スローライフをして、悠々自適ゆうゆうじてきに過ごす。

 別に、冒険者になるつもりはない。

 勇者だ魔王だって言われたなら仕方ないが……俺は農家の息子だからな。


 例え異世界が俺に戦いを求めても、俺の最終目標は……この村だ。

 この村で、俺は十四年を過ごした。

 十五年目は別の街だけど、帰ってくるんだからな。


「二人共、達者でな……」

「無理はしちゃだめよ?」

「身体は大事にね?」

「クー姉ちゃん、ミオ兄ちゃん、元気でね?」


 父さん母さん、レイン姉さんとコハクが言葉をくれる。


「ああ。皆も……」

「うん……ありがとう」


 さびしさは当然あるけどさ、会えなくなる訳じゃない。

 隣街の学校に進学して、寮生活をするだけだ。

 そう考えれば、別に普通なんだよな。


「じゃあ……行くわよ、ミオ」


 そろそろ馬車が出る。

 昨日のうちに、知り合いには別れを済ましたし……アイズは来ないんだよな、なんだアイツ。

 まぁ考えも分かる……変に勘繰かんぐられる可能性があるからだろ?

 今の所、アイズはただの移住者だ……それがわざわざ俺とクラウ姉さんに別れを告げには来ないだろう……と俺は考えたが。


 もしかしたら自分が一人になる事を、まだ根に持っているのかもな。


「ああ……うん。そうだね」


 俺は……とある方向を見る。


 アイシア……来なかったな。

 この村での最後の時間、アイシアとは一度も会っていない。

 実に十日だ、彼女は何を思い……俺に会いに来てくれなかったのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る