4-22【また、直ぐに会えるよ3】



◇また、直ぐに会えるよ3◇


 奇妙きみょうな時間だった。

 真っ昼間から見つめ合う若い男女……どれ程の時間を、二人で経過させたんだろう。

 一瞬にも思えたし、まるで丸一日だったようにも感じたよ。

 一言だけ言える事、それは……ミーティアって、こんなにも美人だったんだなって事だ。


「「……」」


 かわ……いい。吸い込まれそうだ。

 青い瞳に青い髪。海のようで、宇宙のようで。

 きらびやかな宝石のようだ。


「――ほれ、そのままぶちゅっと」


 そ、そうか。こんなにも見つめ合ってるんなら、いいのか?

 ミーティアだって嫌じゃないんだよな。

 少なくとも、好きだと言われている訳だし……このまま。


「――って!!誰!?」


「――ん~?どうした?キスしないのか?ミオ、お嬢様も御自分から行かれたらいいのに」


「ジルリーネ!?」

「ジ、ジルさん!?」


 雰囲気ふんいきブレイカー。

 ジルリーネ・ランドグリーズが、この甘い展開を……まるっとぶっ壊していった。




「おお、ミオからのプレゼントですか。お似合いですよ、お嬢様」


「う、うん……ありがと……はぁ」


 ジルさんは、どうやら騎士の仕事が入っていたらしい。

 そういえば、クロスヴァーデンの豪邸にはいなかったもんな。

 それにしても、鎧姿……久々に見たな。


 【自由騎士団リューズ】の副団長であるジルリーネことジルさん……騎士としての任務の帰りに、俺とミーティアを見つけたんだとさ。

 正直、もう少し待って欲しかったなぁ。

 いや……待たれても、出来なかったかもな……俺には。


「どうしたんですかお嬢様……せっかくミオが来てくれているのに、そんなに落ち込んで」


「……誰のせいよ、もう少しだったのにぃ……」


「は、ははは……」


 ノーコメントで。


 ゴーーーン!ゴーーーン!!ゴーーーーーン……


「……あ。確かこれって」


 時間経過のかね。日本で言うと……お家に帰りましょうだ。

 もうこんな時間だったのか。


「そろそろ戻んないとだ……」


「――え、もうっ!?」


「うん。まだ、作業があるからさ……」


 ミーティアは振り向いて、俺を見る。

 久しぶりに会って楽しかった、でも……もうお別れの時間だ。

 本当に、交渉の為にきたんだもんな……悪いとは思うけど、でも。


「――また、直ぐに会えるよ……俺が、会いに来るからさ」


「……え、どういう事?」


 どうやら……ミーティアは俺が冒険者学校に通うことを知らなかったようだ。

 俺が、春から【ステラダ】に来ることを。

 そして、俺の言葉の意味を理解したのは……ジルさんだ。


「――そうか。ミオ……決めたんだな」


「よく言うよ……ジルさんだろ?仕組んだのは」


「むっ……何故なぜっ」


 やっぱりかよ。

 適当てきとうだったけど、やっぱこの人だ。


「当てずっぽうですよ。クラウ姉さんがこっちに来るんだ、そのことを知ってたのはジルさんだし、まぁそうだろうな……ってさ」


「むむむ……しくじったか。だが、まぁそうだ……わたしだよ、ルドルフに言ったのは」


 そうか。ジルさんが言ったのか。

 父さんに俺を、冒険者学校に……行かせろと言ってくれたのは。


「……ありがとう。ジルさん……おかげで、俺は色々と考える事が出来たよ」


 ジルさんは微笑ほほえみながら言う。


「そうか……ならばいい。大きなお節介をしたと言う思いはあるが……お前は力を、そして権利を持つべきだ」


 権利って……そこまでではないよ。


「え、え?」


 ミーティアは頭の上に疑問符ぎもんふを浮かべながら、俺とジルさんを交互に見る。サイドテールがブンブン揺れている。


 だから、ミーティアに言ってあげよう。

 そして、俺はそのまま帰るのだ。

 俺をドギマギさせた、ちょっとした仕返しさ。


「何でもないよ、ミーティア。それじゃあ、またな……また一ヶ月後……今度は毎日・・会えるよっ」


「――えっ!えええええっ!?」


 それだけ言って、俺は走り出した。

 振り向きながら手を振って、笑顔を見せてさ。

 勿論もちろん毎日なんて会える訳ないけど、それくらいの時間を……ミーティアとは持てるんだからな。


 もう、俺のやるべき事は少ない。

 きっと、残りの一ヶ月はあっと言う間だ。

 日本で言えば卒業シーズン……もう、三月はすぐそこだ。

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