4-18【クロスヴァーデン商会4】



◇クロスヴァーデン商会4◇


 俺の考えは、このダンドルフ会長……【クロスヴァーデン商会】にも利があるはずだ。いや、利点しかないとも思える。

 先行投資は、未来があるから出来る事だよな、俺が村の未来を見せる事で……この人にも、利用価値があると思って欲しいんだよ。


「……税のがくは?」


「はい……通行税は、最小で構わないと考えています。初めのうちは特に……ですね。まずは来て貰う事が重要ですから、帝国の通貨で言えば……百【ルービス】も取れればいいかと。【リードンセルク王国】の通貨は」


「――【トールス】だ。百【ルービス】だと、五十【トールス】だな……安いものだ」


 通行料金が百【ルービス】って事は、野菜一人分よりも安いんだ。

 これなら、払えなくもないだろ。


「人が増えれば、徐々に上げていくつもりではいますが……まずはこの値段でいきたいですね」


 正直言って、今までなかった物をいきなりやるんだ。

 反対もあるだろうが、これは絶対に必要だ。

 悪く言えば、国家問題は金で何とでもなっちまうからな。


「――ふむ、そうなると……初期費用はどうするのかね?」


 ……だよな。厩舎きゅうしゃ、休憩所、土産屋、そして関所。

 当然、警備だって必要になる。

 今の村に、そこまでの金はない。

 まるっきし……出せる金なんか無いんだからな。


「……これは、無理を承知でお願いしたいのですが……」


 初めから、そのつもりだったんだ。

 俺から口にするとあれだから……ダンドルフ会長から話題に出してくれて助かったよ。


 【クロスヴァーデン商会】には、俺の夢を最大限までバックアップしてほしいと思っている。

 世界一の村を作る。そしてその村の裏には自分の会社があるんだ。

 悪くはないと思うんだが……それは夢の見過ぎだろうか。


 俺は深く息を吸い……べる。


「先行投資を……して頂けませんか?」


 ここは直球勝負だ。

 小細工をろうしたって、百戦錬磨の大商人にかなう訳がない。

 なら、どれほどの利益が生めるのか、どれほどの利用価値があるのかを見てもらう。

 それがプレゼンってものだ。


「……ふむ」


 ダンドルフ会長は、口髭をさすりながら考える。

 そりゃそうだよな、先行投資と言ったって多額だ。

 簡単にうなずけるわけはない。

 俺だって、それを承知で頼んでいるんだからな。


「……」


「……」


 な、長い。

 たったの数秒が、何十分にも感じるよ。

 会長の後ろで待機するミーティアも、チラチラと俺と会長に行ったり来たりしている。

 そして、会長の口が動く。


「……この投資、我が【クロスヴァーデン商会】は……どこに出せばいいのかな?」


「え……っと、それは……」


 そう来るか……どこ?どこって、村か?

 いや……俺?


 数秒。考える俺に、ダンドルフ会長は。


「確かに、この話は大変魅力的だ……【クロスヴァーデン商会うち】にも利益は出よう。だが、君の村はどうかな……客足は増えるだろう。徐々に資金不足だって解消は出来ると、私も考える。だが、それは【クロスヴァーデン商会うち】だけだ……君の村には、それほどまでの金は入らないぞ?」


「……それは、はい……承知してます」


 その通りだろう。

 ハッキリ言って、通行税で利益が出るのは【クロスヴァーデン商会】だけだ。

 時間をかけて税を上げても、利用価値がそれ以上ならば客足は増える。

 村に行って野菜を買う者、そこで育て方を勉強する者、様々さ。


 だけど、村から外に出る者はどうだ?

 いないよ。現状はさ。


「ですが、目的はそこじゃないんです。先ほども言いましたが、まずは来て貰う事……そして、知ってもらう事が重要です。私の目的は、世界一です。その為に……一歩、一歩……ゆっくりでもいい、確かに前へ進んで……その先にあるのが」


「……繁栄はんえいか」


 そうだ。

 俺の……村の最終目的だ。

 言ってしまえば、国とは関係ない。

 でも、村を大きくするという事……世界一の村にするという事は。


「私は、村を……世界で一番、人の集まる場所にしたいんですっ!」


 世界で一番、人が集まる村……初めは小さい名も無き村が、町となり都となる。

 何十年や何百年もかかるかもしれない。

 俺が生きている間には叶わない夢かもしれない。

 だけど、それでも思う……それが――俺の夢だ。

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