4-17【クロスヴァーデン商会3】



◇クロスヴァーデン商会3◇


 俺、ミオ・スクルーズが村の為にできる時間は、残り一ヶ月を切っている。

 その為の最優先が、街道整備と……自己防衛だ。

 現状、【豊穣の村アイズレーン】には、国が関与して来ていない。

 【サディオーラス帝国】の最東端であり、首都【カリオンデルサ】から来るには数ヶ月かかる場所だ。

 国としても、何の得にもならない“くたびれた村”なんて、放っておいてもいいと判断してんのかもな。


 だが、これから先……俺の見る未来の村は違う。

 俺は、村を世界一にすると決めたからな。

 理由はなんにせよ、何らかしらの世界一を……必ず成し遂げる。

 何年かかろうとも、必ずだ。


 特に、目指せるものがすでにある。

 それは場所であり、野菜であり、人なんだ。


 世界一を目指している以上、もしも成し遂げた場合……真っ先に手をあげてくるのは国だ。国に知られたら、絶対に利用しに来るだろう?

 なにせ世界一だ。


 もし、この先……他国との戦争が始まれば、村が巻き込まれる可能性だってある。

 そんな時の為、必要になるのは――人と金だ。


 その始まりの一歩が、【クロスヴァーデン商会】との契約だ。

 今では、【スクルーズロクッサ農園】が専属契約として、うちの野菜を国内外に売って貰っている。

 それとは違う契約を……会長さんにお願いしたいんだ。


「今日はお願いがあって、ご息女に無理を言いました。まずは、その点を謝罪させてください……」


 深々と、俺はダンドルフ会長に頭を下げる。

 ゆっくり、数秒間。


 そして顔を上げて。


「そして、常日頃お世話になっている点……感謝申し上げます。【スクルーズロクッサ農園】も、村の自警団の事も……感謝しかありません」


 もう一度、頭を下げて。


「構わんよ。頭をあげなさい……ミオ殿


 ダンドルフ会長の言葉に、俺は顔を上げる。

 どうやら会長も、俺を話し相手として見てくれたようだ。


「ありがとうございます。では、本題に入らせていただきます」


 さぁ、ここからが本番だ。


「今日、お時間を取っていただいたのは……【豊穣の村アイズレーン】と、この【ステラダ】間の道……その通行税をもうけたいのです」


「ほう、通行税か。だが、今まではそちらの国……【サディオーラス帝国】の関与がなかったから、タダで国境を超えられたと言うものがある。それを急に税を取るというのは、国の関与かね?」


 要求をされているのか……と言う意味合いだろう。


「いえ、帝国側からはなにも……ですから将来、【サディオーラス帝国】から接収されない為の通行税なんです……」


 一番怖いのは、帝国がいきなり現れて「今まで税を納めていないな?ならこの村から接収する」と言われる事だ。

 いくら自国とは言え、俺は一切の事を知らない。

 ようは……信用していないんだ。


「なるほど、貯蓄ちょちくと言う訳か。だがそちらの村には、まだそれほどの来客数は見込めていないのではないかね?」


 その通りだ。

 俺が街道整備をしている時も、その数は少数。

 せいぜい商人や配達人が、村に物を届ける程度だった。


「はい。ですが、今後は違います。俺……いえ、失礼……現在、私が街道の整備をしています。これは自信を持って言えますが、他のどの国の道よりも綺麗で、安全だと保障します。中継点としての休憩所もあり、魔法の道具をもちいた魔物除けも、設置する予定でいます……それと街灯ですね……夜間も安全に通れるように、はからっています」


「それを、君……一人でかい?」


「――ええ。私にしか出来ませんから。それと、馬にも走行限度がありますし、厩舎きゅうしゃの設備も考えています。それが出来れば、最短で一日、長くて一日半で村に行けるはずです……」


 今までは、馬車を使って二日の距離だ。

 しかも馬を休ませたり、道が悪かったりとかで時間のロスが多かったはずだ。

 それが改善されれば、もしかしたら一日も掛からない可能性もある。

 中継点で馬を代えれば、本当に一日で行き来できるかもしれない。


「それはいい案だ。うむ、なるほど……その税関を、【クロスヴァーデン商会】に管理しろと……そういう事かな?」


 話しが早くて助かるな。


「はい。国境は丁度ちょうど、中間の50キロメートル地点ですが……そこに設備を導入します。宿や店……小さな村と言ってもいいですね」


「ふむ……そういう事か。国境両方に、それをもうけるというのだな?」


 流石さすが


 ダンドルフ会長は髭をさすりながら、先を考えているのか目をつぶる。

 続けてもいいのかな?


「はい。そのつもりです……【クロスヴァーデン商会】さんのおかげで、うちの野菜も人気が出ています。そのうち、絶対に客足は増えますよ」


 これには確信があるんだよ。

 俺の能力で育ったチート野菜も、それを食って育った家畜かちくたちも……絶品だってさ。

 やりようによっては、【豊穣の村アイズレーン】は……【ステラダ】を超える、商業の村になれるんだ。

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