4-16【クロスヴァーデン商会2】



◇クロスヴァーデン商会2◇


 【クロスヴァーデン商会】会長……ダンドルフ・クロスヴァーデンの家。

 つまりは、ミーティアの実家と言う訳なのだが。


「お、大きい……」


 ミーティアがお嬢様なのは分かっていた、分かっていたんだけどさ。


 そう時間もかからずに到着したその場所は、豪邸も豪邸だ。

 村の建物のどれでもかなわない建造物。

 どれだけの時間と金をかけたのだろう。


 俺の見上げるようなリアクションに、ミーティアは少し申し訳なさそうにつぶやく。


「そ、そう……よね」


「――あ。いや、別に変な意味は無いよっ」


 落ち込みそうなミーティアに、俺は身振り手振りで否定する。

 逆に助長しそうな感じになるから失敗かも。


 アカンな。前世時代の貧乏性が出てしまった。

 それに加えて、今世での田舎育ちが加わってしまって、明らかにキョドってた。


「ううん。皆そうだから、平気よ」


 それはそうかもしれないが……悪い事をしたな。

 ミーティアは、普段からお嬢様を強調しない子だ。

 俺にもクラウ姉さんにも、アイシアたち村の人にも同じく接してくれる、いい子だ。


「ごめんな、緊張しちゃってさ。つい、建物におどろいてしまって」


「ふふふ……ミオの魔法があれば、時間もかからずに作れちゃうんじゃないの?」


「そんな事ないって。作る事だけ・・はできるだろうけど、こんなに細かい装飾そうしょくとかは無理だからさ、俺の魔法は……形だけだよ」


 時間をかければ、確かに作れるだろう。

 【無限むげん】で数値をいじれば、職人も真っ青なクリエイションが可能だ。

 だが、魔力はどうしようもないし……なにより、俺に美的センスはない。

 真似をすれば、簡単に出来ると思うが……ただやはり、一からこの豪邸を作りなさいと言われれば、俺には不可能だと思う。


 俺はミーティア、そしてジェイルに案内されて豪邸に入る。

 豪邸内にはメイドさんらしき人たちが大勢いて、「おかえりなさいませお嬢様、いらっしゃいませ、お客様」と出迎えてくれる。

 いやいや……俺は別にそこまでの客じゃないって。


「――よく来たね、ミオくん」


 ドデカい玄関入り口から少し進み、ロビーまで到達した俺の前に……アポを取った人物、ダンドルフさんが出迎えてくれた。


「あ、ダンドルフさん!すみません……休日に時間をいて貰って」


 わざわざ迎えてくれるとは……申し訳ねぇ。

 俺は背筋を伸ばして、礼をする。


 ダンドルフ会長は緑色の髪をオールバックにして、ダンディなお髭をさすりながら言う。


「いやなに、私も君に会いたかったんだよ。そう言えば……あの時以来だな。随分ずいぶんとたくましくなったじゃないか……はははっ!」


「――きょ、恐縮きょうしゅくです」


 ダンドルフさんは笑って俺の肩を叩く。ベッシベッシ!

 ミーティアが【テゲル】の敗残兵に奴隷どれいにされていた約三年前、この人はわざわざ迎えに来たんだよな。

 俺は、その時以来の対面だ。


「さあ、客間に案内しよう。ミーティア」


「――はい、お父様……こっちですわ、ミオ


「……え、あ……はい。お願いします」


 ミーティアの雰囲気ふんいきが……ガラッと変わった。

 この感じ、あれだ……――秘書だわ、これ。


「失礼しま――マジかょ……」(小声)


 入室しての一言。

 聞かれないように最小の小声で。


 え、客間……?これ客間なの?

 どうみても、会議室じゃね?

 長方形の長い室内、長いテーブルに沢山の椅子……いや会議室だよなぁ?


「さ、座るといい。話があるのだろう?娘から聞いているよ……ただ、【クロスヴァーデン商会うち】も忙しい身だ。最近は特に……王都からの仕事も多くてね」


 ああ……なるほど。

 この人は、やっぱり仕事の出来る人だ。


「――感謝します、ダンドルフさん……いや、ダンドルフ会長」


 それなら、俺も俺で対等に……交渉相手として上手くやらないとな。

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