4-19【世界一の村に】



◇世界一の村に◇


 世界で一番人がおとずれる村。

 そこから始める、世界の発展。

 そうすれば、おのずと金は回るはずだ。


 俺の夢でもあり、【クロスヴァーデン商会】の充分な利益りえきにもなる事だと、俺は思う。

 チート能力の宝庫……俺だから思える事でもあって、長い年月を想定した計画だ。

 今の俺では使う事が出来ない能力も、きっと使えるようになる。

 そうすれば、村の発展に役立つ能力だって絶対にある。

 【無限むげん】や【豊穣ほうじょう】が、既にその部類だと思うけどな。


 それと、こんな事を恥ずかしげも無く言ってはいるが、元々は考えていなかった。

 きっかけはアイズ……【女神アイズレーン】だ。

 あいつは、豊穣ほうじょうの神なんだろ?

 その能力が、きっと【豊穣ほうじょう】だ。


 別にあいつを喜ばせようとしているわけじゃない。

 あの村は、俺の産まれた場所だ……二度目の人生の、帰るべき場所なんだ。

 そこを大きくしたい、発展させたいというのは……間違いじゃないだろ?


 俺の思いは話した。

 あとは、会長の言葉を――


「……ははは……世界一、か」


 ダンドルフ会長は笑っている。


 くっ……やっぱ、駄目だめか?

 子供の戯言たわごとだと、妄言もうげんだと、夢物語だと。

 分かってるよ。それでも、夢の為に頑張るのは、悪い事じゃない。


「やっぱり、甘いです……よね」


 大商人に言わせれば、見込みは相当甘いのだろう。

 だが、決して無謀むぼうではないと、俺は思う。

 だって、俺は転生者だ……予感って言うのかな。

 不思議ふしぎな感覚が、脊髄せきずいから来るんだよ。

 理屈じゃない。理論じゃない。御託ごたくを並べなくたって……うまくいくって言うさ。


「……」


 一頻ひとしきり笑ったダンドルフ会長は、申し訳なさそうに言う。

 そこまで笑わんでも……と、内心は思ったさ。


「ははは……いや、すまんな。世界一の村か、それはいい」


 あれぇ馬鹿にされてる?……いや、でもこの人は。


なつかしいよ。私も、若い頃はそうだった……」


「「え?」」


 俺とミーティアがハモった。

 ミーティアはすぐに咳払いをして「申し訳ありません」と言って頭を下げた。

 なるほど、父親の若い頃の夢。初めて知った……って感じか。


「……私は、一代でこの【クロスヴァーデン商会】を大きくした。それこそ、今の君のようにね……夢があったんだ、私にも。世界一の商人になるというね」


 それを実現させたんだよな。

 世界一かは置いておいても、【リードンセルク王国】や近隣諸国きんりんしょこくでは一番な筈だ。


「君の見込みは確かに甘い……だが、面白くはある。それこそ、私が昔を思い出して、若かりし頃の熱い思いを……再燃させるくらいには、な」


 再燃……再び、燃える。


「……それって……!」


「ああ。いいだろう。【クロスヴァーデン商会】は、ミオ・スクルーズ……君個人に出資をしよう。君の見る未来に、夢に……便乗させてもらうとしようではないか」


「あ――ありがとうございますっ!!」


 想いは届く……届くんだ。

 甘ったれた理想でも、夢のような妄言もうげんでも、我儘わがままなような御託ごたくでも。





 つ、疲れた……会長との話は終わったよ。

 あの後に書類にサインをして、俺個人への出資が決まった。

 出資と言っても、別に金を借りる訳ではなく……【クロスヴァーデン商会】に管理をお願いする中継点や国境付近の店などの建築費……それを出してもらった。

 そこの売上を、そのまま返していくと言う取り決めで。


 更には、税の取り決めだが……通行税は最小だし、実入りを考えれば反対も出ないと考える。

 その税はそのまま【クロスヴァーデン商会】に入り、その代わりに……他国へうちの村の宣伝をして貰う事になったんだ。

 正直、それで充分なんだよ。


 疲れ果てている俺に、ミーティアが。


「お疲れさま、ミオ……はい、紅茶」


「――あ。ありがとう、ミーティア」


 ぐったりとソファーに身体を預けていた俺は、直ぐに背筋を正して紅茶を頂く。


「……いい香りだ、これは?」


「【ステラダ】の隣の町……【ルーグタル】の名産品よ」


「へぇ……独特な香りだね」


 いい香りではある。あるのだが。

 くせが強いというか。


「――薬膳やくぜんにも使われるからね」


 薬膳やくぜん、つまりあれだ。

 身体にはめちゃくちゃいいんだろうな。


 よ、よし……ここは一気に頂こう。

 俺はグッ――と腹に力を込めて、紅茶を飲む。


「……どう?」


 笑顔で聞いてくるミーティアに、俺は。


「う、うん……美味い、かな」

(し、渋いぃぃぃぃぃぃ!!)


「ぷっ……く、ふふっ……ミオ、凄い顔よ?」


 笑うミーティア。

 こうなると分かってて聞いたな?


 それにしてもすっげぇ渋い。

 香りは紅茶なのに、味は全然違う……でも。


「気合い入ったよ……ありがとな、ミーティア。それでさ――」


「……ん、なに?」


 俺は、直ぐにまた作業に戻らないといけない。

 ミーティアにも、聞きたいことがある。

 少し時間を貰って、話をしたいな。

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