4-14【時間は進む】



◇時間は進む◇


 寒空の下、ぽつんと建つ小さな小屋の中で、俺は目を覚ました。

 アイシアとクラウ姉さんが来たのが随分ずいぶん前に感じるな。


 俺は一人、小屋を出る。

 このせまい小屋の中で、もう何度眠っただろう。

 俺がこの【ステラダ】への道の整備を始めて、早くも一ヶ月がったよ。


「あとどれくらいだ?……はぁ~疲れる」


 この一ヶ月の間、家にも勿論もちろん帰ってるよ。

 この作業に取り掛かった初日、アイシアが来てくれたあの日も、送っていく為に三人で帰ったさ。


 そして、この一ヶ月で進んだ街道整備の進捗しんちょく状況は、約80キロメートルほどだな。

 頑張ったんだよ、たった一人でさ。


「……【ステラダ】までもうちょっとだ。頑張れ、俺」


 所々に中継点として休憩所を建てて、休み休み作業をした。

 中身はまだ空っぽ、前のミーティアの家みたいな感じだよ。

 そこをやるのは、まぁ他の人でもいいからな。


 道を整備するだけなら、多分十日ほどで終われたんだよ。

 運よく、【ステラダ】からの旅人もそんなに多くはいなかったしな。


 え?それが普通だっただろって?

 うん。そうなんだけどさ……


 そんな事が言いたいのではなくさ、他の作業だよ。

 道の整備事態は、たいした労力じゃなかった。

 それ以外に取られたんだ。いや……俺が取ったんだよ。


 村の人たちとの、交流を……さ。

 アイシアを始め、ガルスや学校の少な~い友人。

 レイン姉さんの友人ミラージュさん。雑貨屋のディンさん。

 俺が基本的に懇意こんいにさせてもらってる人たちだな。


 そんな人たちとの交流を、俺は優先させたんだ。

 だけど、サボってた訳じゃないぞ?


「……み、見えた……【ステラダ】!」


 道だけじゃない。村の設備だって整えていたんだよ。

 残りの一ヶ月で、残すはこの街道整備と……【ステラダ】での交渉だ。


 そうさ、俺は今……【ステラダ】目前の場所にいるんだ。

 80キロは、歩きだとやっぱり遠い。

 だから残りは、一気にやってしまわないといけないと思ったんだ。


 だけど、この道が整備されたとして……税はどうなるんだという事がある。

 【豊穣の村アイズレーン】は、【サディオーラス帝国】と【リードンセルク王国】の国境付近にあるんだ。


 詰まる所、この道は丁度国境なんだよ。

 通行手形とか、税関がある訳じゃない世界だけど……国から言われた時にどうするか、それが問題だ。

 帝国内の他の街からも、最近は村に来る人が増えている。

 帝国の首都は【カリオンデルサ】と言うのだが、無論、俺をふくめ村の人は行った事はない。

 しかも、場所は正反対の西なのだ。

 遠すぎるんだよ!首都ならせめて中央に作れよ!と、声を大きくしたい。


 さっきも言ったが、【ステラダ】との交渉と言うのは、【クロスヴァーデン商会】との交渉だ。

 もし帝国のお偉いさんが来て、何かを言って来た場合の為に、【豊穣の村アイズレーン】には……税を出す必要があるのだ。


 さてと、寂しく独り言を言い、この一ヶ月の事を語りながら、俺は数キロを歩き終え……そして目的地、【ステラダ】に着いた。


「久しぶりだなぁ……【ステラダ】」


「――ミオーーーーっ!!」


 到着早々、俺に声を掛ける女性。

 青い髪を風になびかせて、満面の笑みで俺に笑いかける。

 ミーティア・クロスヴァーデン……実に三ヶ月ぶりの再会だった。

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