4-13【送り出すよ、わたしも】



◇送り出すよ、わたしも◇


 せまい小屋の中、三人で並ぶ。

 肩と肩が触れ合う距離で、わたしはミオの隣を獲得した。

 先にミオが小屋の中に入った事で、クラウさんが次に入ったらはしっこ確定。

 だから離れない様にしていたけど、クラウさんは不思議と私を押してくれた。物理的に。


「……お、美味しいね。レインさんのシチュー」


 本当に美味しい、後で教わろうかな。


「ああ。本当に美味いよっ。アイシアも、わざわざ持って来てくれてありがとな」


「う、うん。どういたしまして……えへへ」


 ど、どうしよう……不自然じゃないかな?

 いつも通りに話せているかな?


 隣に座るミオは、わたしを……どう思ってるかな?

 あれから二年半……わたし、女の子として見られてるかな?

 幼馴染を、抜け出せたかな?


「……」


「……」


 う〜ん、会話が続かないなぁ。

 あ~、クラウさんが見てるよぉ……緊張するなぁ。


 よ、よしっ。今こそ女を見せるのよ!アイシア・ロクッサ!


「ミ、ミオぉ……」


「え?なんだい?」


 こ、声が震えるぅぅ。


「――私、少し出てるから――っあいたっ!!」


「え、ああ……うん」


 クラウさん、もしかして気を遣ってくれた?格好いいなぁ。

 小屋から出る時に頭ぶつけたけど。

 クラウさんの身長で頭ぶつけるんだから、そうとうせまいのが分かるよね。


 よ、よし、気を取り直して行こう。

 言わないと……わたしが知っている事を、思っている事を。


「あのね、ミオ……」


「うん?」


「――村を、出るんだってね」


 言ってしまった……本当は、ミオだって自分から言いたかっただろうけど。

 わたしが言葉をはっした瞬間……ミオの顔が少しだけ強張ったかも知れない。


 でも、ミオは真剣な顔で答えてくれる。

 きっと、わたしが今回の事を知っているかどうか、気になってくれていたんだと思う。


「ああ、あと二ヶ月。そうしたら、クラウ姉さんと一緒に……【ステラダ】にある冒険者を育てる学校に行くんだよ……黙ってて――って言っても、俺も知ったのは昨日なんだよな、あははっ」


 「黙っててごめん」そう言おうとしたんだね。

 でも、自分も知ったばっかりだって気づいて……笑う。

 そう言う所だよね、ミオの良い所。


「うん……」


「あれ、あんまりおどろかないね……?あ~そうか、アイシアも?」


 ごめんね。


「――うん。わたしも知ってたんだ……ママに言われたの。先月だったかな」


 初めて言われた時は、それはもう泣いた。ガチ泣きしたよ。

 三日間、泣き晴らしたし「わたしも行く!」なんて事も言ったりもした。


 でも、私にはそんな才能はない。

 魔力が何なのかも、私には分からないんだから。


「そっかぁ、本当に隠されてたんだな……やるなぁ父さん」


 ミオはフフフっと笑う。

 はにかむ笑顔には、なんのわざとらしさも無いように思えた。


(よかった)


 少なくとも、おじさんと確執かくしつにはなっていないみたいで。

 ミオは凄い人だ……この村がこんなにも広く、大きく便利になったのは、確実にミオの魔法があったから。

 それはきっと、村の皆も分かってる。


 クラウさんもミオも、外に出るべき人。

 才能あふれる未来の人。

 わたしみたいに、何も出来ない人間とは違う。


「ふふっ……そうだね。わたしのママも、「ルドルフはそう言う所があるからっ」って言ってたよ」


 流石さすがは共同経営者だよね。

 まるで長年お互いを知っているかのようなセリフだもの。


「だからさ……わたし、ミオを応援するよ。頑張って欲しいから、かがやいて欲しいから。送り出すって……決めたから」


 わたしは決めたんだ、ミオを送り出すって。

 わたしは……「行かないで」なんて言う女にはなりたくない。


 冒険者学校に通う期間は三年。

 別に会えない訳じゃないって聞くし、こっちから会いに行けばいい。

 わたしが、ずっとず~っと貯め続けたお小遣いで、会いに行けばいいんだから。


「アイシア……本当は、俺が言わなくちゃいけないのにな。時期を見て言おうとは考えてたけど、アイシアはやっぱり積極的だよなっ」


 わたしの行動をめてくれるミオ。

 それが嬉しくもあり、少しだけ悪いとも思ったけど。

 それでも……嬉しさが勝った。


「うん!……だってわたし、ミオが大好きだもん……えへへっ」


 そう言って、わたしは最大限の笑顔で。

 大好きな少年に笑いかけたのだった。

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