4-9【これは俺が決めた事2】



◇これは俺が決めた事2◇


 緊張するよなぁ……背を向ける父さんは、多分俺の言葉を聞く気はないんだろう。

 でも、レイン姉さんが「せめて聞いてあげて」と、そんな感じで説得せっとくしてくれたに違いない。

 そうでなければ、部屋にすら入れない筈だからな、この頑固者がんこものは。


「さっきは……その」


 どうすっかな。考えてた事をそのまま言っても、なんだか意味がない気もする。

 だとすれば、そうだな……まずは――俺の気持ちからだ。


「……父さん、母さん。さっきは、急に飛び出して行ってごめん。二人の事も考えずに、俺は身勝手だった」


 父さんも充分身勝手だけどな。

 でも、それは俺の事を考えての事……なんだよな。


「村を出てどうすればいいかなんて、正直分からない……でも――出ていくよ」


「「……」」


 二人は無言だ。

 だが一瞬だけ、父さんの肩がピクリとふるえた気がした。


「村を出て、冒険者学校に行くよ。クラウ姉さんと一緒に。さっき外に出て、少し考えたんだ。【ステラダ】には沢山の人がいる、沢山の職業、沢山の大変な事……ふくめて全部……見てくるよ」


 これは、俺が決めた事だ。

 父さんに強制はされていない。

 これなら、コハクが父さんを嫌いになる理由にはならないだろ?

 父さんの説明不足を逆手に取って、俺は家族を一つにしたまま――出ていくんだ。


「その、クラウ姉さんから少しだけど聞いてた……冒険者学校は、入学から三年間……冒険者ライセンスを取るまでの道のりだって」


 【王立冒険者学校・クルセイダー】。

 普通だったら、冒険者を名乗るのに理由はいらない。

 免許なんかも、普通は必要としない。


 だが、この学校は違う。老若男女ろうにゃくなんにょの人たちが、三年かけてライセンス取得を目指すのは、受けられる恩恵おんけいが目当てなんだ。


「通って一年で、準冒険者のライセンスが取得できる、そうすれば……外で魔物と戦って報酬を得る事が出来るんだって……その報酬は国から受けられるもので、外国人だろうが関係なく、稼ぐ事が出来る」


 ライセンスを持たない冒険者は、個人でしか依頼を受けられない。

 国からの莫大ばくだいな報酬を、得られないんだ。


「正直言って、俺は冒険者には興味きょうみがないよ。物を作ったり、想像したりする方が性に合ってるしね……でも――行くよ。この村を出て、見聞けんぶんを広める……そうして、帰ってくるから」


 この世界に転生して、赤ん坊からやり直した。

 だけど、スタート地点はまさかのこんなド田舎で。

 しかも魔物はいないし、戦士や魔法使いもいない。

 ファンタジーの世界だって事も……全部吹っ飛んでたさ。


 だけどそれ以上に、得たものが大きかった。

 前世で捨てた家族ってものが、こんなにも大切なんだと、改めて実感したよ。

 俺が欲しかったもの……家族。

 優しい姉に、ちょっと怖い姉、少し小生意気な妹。

 綺麗な母親に、情けないとも思ってた父親。


 でも、こんなにも温かくて……大切な存在だ。

 俺は父さんを嫌いになんてならない。

 こんなにも子供思いの、馬鹿な男なんだからな。


「父さん、母さん。俺は村を出て……勉強をしてくる。そうしてここに帰って来て……この村を、世界一の場所にしてやるっ!……だから、俺の我儘わがままを聞いて下さい――お願いします!!」


 俺には夢が出来た。

 転生直後の、ゲームの世界にあこがれているようなものじゃない。

 俺はこの村を……この世界で一番の場所にしたいんだ。

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