4-10【残りの二ヶ月】



◇残りの二ヶ月◇


 この村を世界一に……具体的なビジョンなんて無いよ。

 それでも、何かしらの成果を果たしていけば、きっと将来……叶えて見せる。


「それだけだよ、俺が言いたいのは。だから、残りの二ヶ月……よろしくお願いしますっ!」


 頭を下げ、俺の宣言せんげんは終わりだ。

 全部、俺が決めて俺が実行する。

 父さんに言われたからじゃない。


 だから、そんな態度はもうしなくていいよ、父さん。


「――って訳だから、母さんも……よろしくお願いします」


「……ええ」


 レギン母さんは、優しく笑ってくれた。

 指で涙をすくいながら。


「……」


 父さんは何も言わない。

 でも。分かるよ……俺が部屋から出ていくのを待ってるんだろ?


「それじゃあまた明日、おやすみなさい」


「はい、おやすみ……ミオ」


 パタン――と扉を閉めた瞬間。

 父の嗚咽おえつが聞こえた。必死に抑えていたのだろう。


 俺の言葉は、想いは……通じたんだ。


「――ふぅ……将来、あぁなりたいもんだね……」


 不器用でだまされやすい……じゃないぞ?

 子供思いで、子に思われるそんな親に……なりたいな。


 自分の部屋に戻りながら、俺は思う。

 残りの二ヶ月、俺は父さんを見ていよう。

 父としての背中を、見ていようと思った。

 俺が将来……父になる時の為に。





 翌朝。俺はスッキリと目を覚ました。

 まるで眠剤みんざいでも飲んだのかと言えそうなほどの快眠だった。


「んんんんんっ……と」


 背伸びをして、窓の外を見る。

 そこでは、父さんが雪かきをしていた。


「……ふぅ。手伝うか」


 俺は昨日と同じような失態をしないように、しっかりとコートを羽織って外に出る。

 だがしかし。


「さっみぃっ!」


 昨日は無我夢中だったから途中まで気付かなかったけど、やっぱさみぃわ。

 でも、正直嫌じゃない。

 前世ではあたたかい所で産まれた俺だから、雪への憧れがあったからな。


「――父さん。おはよう」


「……お、おお……おはよう」


 ビクッとした父さん。

 本当にそう言う所だよ……やっぱりさ、昨日のような態度は性に合ってないよ、父さん。


「手伝うよ」


 俺は簡単に挨拶あいさつだけをして、木のスコップを持って作業に入る。

 雪がだいぶ降ったな、きっとどの家でも……今頃、雪かきの最中だろう。


「「……」」


 無言だ。でも、昨日のような気まずさはないと思う。

 これが、普通なんだよ。


 せっせと雪をどかし、地面が見えてくる。

 そこには……雪野菜と呼ばれる、雪の下で育つ強い野菜の葉が見えた。

 甘いんだよ、夏の時より。


「おお~。育ってるな……」


「どれ、少し採ってみるか」


「うん、だね」


 【雪の下ボォム】と俺たちが呼ぶ、冬キャベツのような野菜だ。

 根からナイフで切って、父さんは葉っぱを俺に渡す。


「あむっ」


 パリパリ……シャキッ――


 うめぇ。

 超絶甘いし瑞々みずみずしい。


「……美味いよ」


「そうか。このまま増やせると思うか?」


「う~ん……冬季限定にはなるけど、ここ数年は雪も多いしイケると思うよ。問題は、足だね」


「……雪が多ければ、【ステラダ】から来る馬車も遅くなるからな……」


 そうだな。しかも結界が無くなった事で魔物も出るし、クソったれな害獣も出る。

 収穫はともかく、問題はそっちだろうなぁ。


 だから、俺は考えていた事を父さんにべる。


「道は、俺が魔法で整備するよ……二ヶ月もあれば、【ステラダ】への道もスムーズに出来ると思うし」


 道の悪さを改善できれば、もっと行き来が楽になる。

 現在は、【ステラダ】まで馬車で二日。距離にしておよそ100キロメートルだ。

 自分がそんなに多く出歩かないから、後回しにしてたんだよな。


「俺がやるからさ……」


 決めたんだ……この残りの二ヶ月で、俺は最善を尽くす。

 そうして、いつでも帰ってこられる環境かんきょうを整えるんだ。

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