4-7【四人の子供】



◇四人の子供◇


「――あ!クー姉ちゃんっ!ど、どうだった?パパの様子っ!」


 私は、部屋には入らずそのまま戻って来た。

 末っ子のコハクが、心配そうに聞いてくるが。


 何て説明しよう……今のパパには、きっと何を言っても聞くはずがない。

 だってもう、完全に決めてしまっているもの。

 外野わたしたちが何を言っても、聞くとは思えない。


 ミオが今どう思うかよりも、それよりももっと先……ミオの未来の事を考えて、ああ言ったんだと、分かってしまったから。

 例え嫌われても、例え疎遠そえんになったとしても。

 ミオの事も、私の事も考えてくれていた。


 そんな不器用な、パパ。


「パパは、うん……さっきと変わらないわ。でも――」


 この子には、何と言えば納まりがつくのだろう。

 コハクはこの村にいるんだもの……この先何年になるかはわからないけれど、まだ十歳のコハクはこの村で育つのだから、父親を悪く思わないで欲しい。


「――むぅぅ。コハク、行ってくるっ!」


 うん。やっぱり私の妹だ。

 私はコハクの胴体をがっちりと両腕でかかえた。

 この子、こんなに大きくなって……お、追いつかれそうな気がしてならないわ。


駄目だめだよ。今は、パパとママが話しているから……」


「――わっ!……え~!!は、なしてぇぇぇ!クー姉ちゃん、小さいのに力強いっ!」


 小さいは余計だっての!

 十歳のコハクと、身長差がほとんどない私……みじめだ。


 でも、コハクもミオが大好きなのよね。

 普段は私やレイン姉さんの真似をして、ミオと呼び捨てにするけれど。

 それはミオの前だけ。


 外にいる時はお兄ちゃんって呼んでるの、知ってるよ?


「――分かった?お父さんの考え?」


「……レイン姉さん」


 レイン姉さんはコハクをなだめながら、少しだけ悲しそうに言う。

 やっぱり姉さんは、今日の事……知ってたんだね。


 私は答える。


「――うん。私からは……何も言えないよ。それをしたら、パパの考えが無駄になっちゃう……もっといい考えもきっとあるんだろうけど……不器用だね、パパは」


「うふふ、そうね」


 自分が嫌われてもいい。それでも子供を送り出すだなんて、普通しないよ。

 ミオの性格を分かってるから出来るんだ。

 もしさっき、「クラウが卒業したら、お前も一緒に冒険者学校に通いなさい」だなんて言ってたら、ミオは絶対に行くなんて言わない。


 意地でも村に残って、独りででも何かをするだろう。

 それはそれで凄いけれど……でも、そんなのは悲しい。

 今日のこの選択は……将来きっと取り戻せるから。


「ミオもきっと分かるよ。きっと」


「そうね。ミオはいい子だものね」


 ガチャ――


 扉が開いた……ミオが、帰って来たんだ。

 私たち三姉妹は顔を見合わせて、迎えに行く。


「……あ。た、ただいま」


 頭に雪を被った弟が、鼻を真っ赤にさせて帰って来た。

 私たちにはにかむその笑顔が、少しだけ悲しそうで……でも同時に、何かを決意した、男の顔に……私にはそう見えた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る