4-6【子供は知らなくていい事】



◇子供は知らなくていい事◇


 ミオが出て行って、家の中が静かになってしまった。

 パパがあんな事を言うだなんて、誰が想像しただろうか。

 今日は、家族そろってのパーティーだったのに……最悪だ。


「……」


「クー姉ちゃん、どうしよう……?」


「う、うん……そうね」


 コハクの言葉に、私も戸惑とまどいを隠しきれない。

 本当にどうしよう……パパはここ最近、ずっとミオを見てた。

 遠めに見ても、それは感じていた。

 私もミオ見ていたけど、この村を良くしようと……必死にやってたのよ。

 そんなミオに、どうしてあんな言い方を。


「少し、様子を見てくるわ」


「え……コハクも」


「コハクは駄目だめ。声出すから」


 む~!といじける妹を置いて、私は両親の部屋に向かう。

 途中でレイン姉さんに「余り怒らないでね?」と言われたけど、やっぱり姉さんも知ってたのね。


「……ん?」


 執務室に向かうと、話し声が聞こえる。

 ドアが少しだけ……開いていた。

 盗み聞きは悪いと思いながらも、私は壁に寄りかかって……夫婦の会話を聞くのだった。





「あなた、よかったの?あんな言い方で。もう少し、ハッキリと言ってしまった方が、ミオは聞くわよ……聞き分けはいい子なんだから」


 ハッキリ?確かに、「村を出ろ」だなんて、突然言われたらただの追放だものね。


「いいんだよレギン、あの子には自由を謳歌おうかしてほしい。もし、ミオが望むなら……別に冒険者学校じゃなくたっていいんだ。村を出て、好きにすればいいんだ。ミオなら強くやっていけるさ……」


「そうだろうけど、もう少し……言い方があったんじゃない?」


「……【ステラダ】には【クロスヴァーデン商会】がある。ミーティアさんもいる。もし、ミオが冒険者学校が嫌になったら、そこで勉強させてもらえばいい。ダンドルフ殿には、許可をもらってるしな」


 ミオが冒険者学校に!?聞いてない!

 それに、辞めてもその後の事まで……そんな根回しを、あのパパが?


「でも……あの子、怒ったままよ?」


「――父親なんて、嫌われてなんぼのものさ。子供の為なら、どんな恥だって怖くない」


 パパ……そんな風に、考えてたの?


「そう……まったく、しょうのない人」


 ママは笑いながらパパに言う。本当だよ。


「クラウだってそうだ。あの子の夢を応援するのが……父親の役割だ。もし、夢破れて傷付いたとしても、この村に帰ってくればいい。いつでも帰ってこられるように、村を守っていくのさ……ミオが、教えてくれたからな。色々と」


 知らなかった。

 昔から口数の多い人ではなかったし、なにかと鬱陶うっとうしいと思った事もあった。

 前世で父親を嫌悪していた私は……無意識にパパを同じ目で見ていたんだ。


 私は、そんな自分が恥ずかしかった。

 親の考えなんて、考えた事が無かった。

 いい年になるまで独り身で、親になる事なんて一ミリも考えもしなかった前世、漆間うるま星那せいなの人生では、決して知る事が出来なかった感情だった。

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