4-3【冬の夜、一人】



◇冬の夜、一人◇


 雪だ……雪が降っている。

 この世界の中では、西にあるらしいこの【サディオーラス帝国】、その最東端。

 聞く所によると、【サディオーラス帝国】には端と端で時差があるらしい……いやロシアかよ。

 西にあるからあたたかいだなんて思ってた時期もあったが、普通に冬は寒いし雪も降るから、農家は大変だよな。

 まぁ、【豊穣ほうじょう】のおかげで、この村の農家は年中無休で働けるけどさ。


「う~、さみぃ……」


 家を飛び出て、俺は一人で歩いていた。

 外は暗い。俺が作った街灯がいとうもどきは、まだ光を持たないからな。

 【ステラダ】から魔法の道具が届くまでは、ただの鉄の棒だ。


 だけど、もう俺が何かする必要も……ないのか。


「くそっ……なんなんだ。俺が何したってんだよ!」


 半年の間、俺は有言実行をする為に頑張ったさ。

 村の人口を増やす目的は、想定よりは大分ゆったりとなってしまったけど、【ステラダ】から来てくれた従業員たちは、働き口が見つかって喜んでいたし。

 給料もそれなりに払っているから、嫌という事なく移住を決めてくれたよ。

 それ以外にも、女神の結界が無くなった事で……村に旅人がおとずれるようになったんだ。


 悪意のないものは歓迎しますよ、そりゃあね。

 野菜を気に入り、自然を気に入り。

 そして施設しせつを気に入った人もいる、水がタダなんでね。

 考えは様々だけど、確実に人口は増えたんだ……それなのに。

 父さんも母さんも、レイン姉さんでさえ……俺に黙ってたんだ。


「――あ。そうだ、アイズは?」


 俺はふと、アイズは知っていたのかと思い、あいつの家に足を向ける事にした。

 元は俺たちスクルーズの家があった場所だな。

 そこに建てた、アイズ一人の為の家。


「おーい。いるか?いるよなっ?いるんだろ?開けろ。あーけーろ!開けろオラぁ!」


 まるで取り立て屋だな。


「――うるっっせぇぇぇぇぇいっ!何よっ!こんな夜にぃぃ!って……ミオじゃない、何その顔」


 こいつでも気付くくらい、俺は参ってたんだな。


「いいから、家に上げろよ」


「――えぇ……何その彼氏面かれしづら。ま、いっか……あんたなら」


 そう言えば建築けんちくした以来だな、秋だったから……数ヶ月振りにこの家に入る――ってぇぇぇぇぇぇぇ!!


「き、きったねぇ……」


 ナニコレ、ゴミ屋敷じゃないか。

 秋からの数ヶ月で、こうはならんやろ。


「失礼ね。分かりやすい所に置いてるだけよ」


 どれがどれか分かんねぇよ。


「――で?なんでそんな泣きそうな顔な訳?聞いてあげるわよ?この女神さまが、ねぇ~」


 いや、お前どこに座ってんのそれ?

 それさ、前に雑貨屋で買った物の箱だよな?いい加減に捨てろよ。


 でも、まぁ……


「聞いて、くれるか?」


 何でもいい……誰かに聞いて欲しかった。

 それが例え、汚部屋の女神さまであろうとも、さ。

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