4-4【汚部屋の女神さま】



◇汚部屋の女神さま◇


「ほっほ~、へぇ~、なぁるほどね~」


 この汚部屋の住人アイズは、まるで聞き流しているかのような態度で俺の言葉を聞いていた。

 普段だったなら、ちょっと頭にくるかもな。

 でも今はいいや。

 思いをき出せれば、少しは楽になるからな。


「――って事だよ。お前は知ってたか?」


 俺は、アイズに全部話した。

 クラウ姉さんの卒業と同時に、俺も強制卒業させられる事、村を出ろと言われた事……それを言った。


「――あ、あたしは?」


「は?」


 おいこら、俺の話を聞いてたか?

 なんなのそのポカーン顔。

 お前、俺がいなくなった後の自分の事心配しただろ。


「ねぇ、あたしはどうすんの!?その理屈で言ったら――あんたも冒険者学校に行く・・・・・・・・んでしょ!?」


「はぁ?」


 え?は?……え?そうなの?

 そう言えば、確かに「村を出ろ」とは言われたけど、何をしろとか……具体的な事は言われなかった。

 てっきり、要らない子になったんだと思ったんだが。


「冒険者、学校……?……俺が??」


「ねぇ聞いてる!?あたしはどうすんのよっ!」


 ごめん少し黙ってて。

 俺は迫ってくるアイズの顔面をつかんで、考える。


「――むがぁぁぁぁぁ!」


 父さんは、なんで何も言わなかったんだ。

 それとも、言えなかったのか?

 あぁでも言わないと、俺が……出て行かないから?


 実際、そのつもりだった。


「むごごごっ!!」


 もしも「クラウ姉さんと一緒に冒険者学校に行け」なんて直球で言われたら。

 そんな事を言われたら、意地でも出て行ってやらんだろうな、俺は。

 そう思ったら、きっと一人で暮らして一人で畑を持って……そうやって暮らしていこうと、頭のすみで考えてるはずだ。


 でも……もし喧嘩けんか別れなら?

 出て……行くしかなくなったら?


 父さんは、俺が頑張っていたのを見ていてくれたはずだ。

 この半年、ずっと一緒に仕事をして、相談も沢山されたよ。

 村の事、畑の事……お前父親だよな?と思わせるような発言も多くあった。


 でもそれは、俺がいなくてもこの村がやって行けるように。

 父さんが、プライドを捨ててまで……頑張っていたんだ。


「――ちゃ、ちゃんと言ってくれよ……じゃないと、ただただ俺がっ!」


 親の気持ちを分かれない子供だ。


 言ってくれれば、もう少し……理解できただろ?

 喧嘩けんか別れで無理矢理外の世界に放り出させるだなんて、そんなの古いって。

 いくらこんな小さな村でも、俺にとってこの村は第二の人生の故郷なんだ。

 骨をうずめる覚悟さえ持っていた、スローライフの場所なんだよ。


「……話に、乗っておけって事なんだろうな。くそっ……」


 きっと、このまま我儘わがままを言ったら駄目だめだ。

 父さんの覚悟を無駄にするのは駄目だめだ。


「むぐっ!?ぷはぁっ!……どうしたのよ?」


 手を離した。涙目で俺を見るアイズ。

 でも、不思議ふしぎと心が晴れた気分だった。

 他人でも、話をするのって大事だな……実感したよ。


「サンキュ。汚女神めがみ様……自分じゃ辿たどり着けなかったわ」


「――ちょっとミオっ!今、「汚」ってつけたでしょ!!あたしには分かんだかんね!こらぁ!」


 あはは、バレてら。

 でも、読み方はそれでいいだろ?

 ありがとなアイズ、話を聞いてくれて。

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