4-1【それは突然の宣告だった】



◇それは突然の宣告せんこくだった◇


 あの日……【豊穣の村アイズレーン】に、魔物が大群をって襲って来たあの日から、半年が過ぎた。

 地球で言えば、年が明け冬も真っただ中の1月。


 この村に住む少年……ミオ・スクルーズに、その宣告せんこくは突然おとずれたんだ。


「――は?」


 家族が集まるリビングの空気は、マジで一瞬で凍った気がした。

 外が冬で寒いとはいえ、ガチでこの空気を作ったこと……俺はのちに反省する。


 開幕から頓狂とんきょうな声で悪かったな。

 出したのは俺……ミオだ。

 時期的には、正月を終えた直ぐあとで、家族団らんで過ごす十四度目の冬だ。

 今日はアイシアも自分の家だし、ミーティアもジルさん冬休みのような感じで【ステラダ】に帰っている。


 そんな団らんの中で、俺は木のフォークに刺さっていた野菜を落とした。

 ポトリ――と転がる【メット】と呼ばれるトマトのような野菜が、テーブルにむなしく転がった。


「父さん……今、何て言った?」


 俺にアホな声を出させたのは父さん。

 この村の村長でもある、俺の父親……ルドルフ・スクルーズだった。

 父さんはすでに食事を終えていて、俺の戸惑とまどいなど関心なさそうに窓から外を見ていた。


「――三月。クラウが学校を卒業するな……だから、お前も卒業をしろ」


 意味が分からなかった。

 だってそうだ、この村の学校は十八歳までだろ?小中高一貫のようなものだ。

 俺は、今年の六月で十五歳になる。そう、十五歳だ……卒業までは三年もある。

 それを……クラウ姉さんと同じく、今年で卒業しろって……言ったのか、父さんは。

 はぁ?何のつもりだよいったい。


「理由は?」


「……」


 答えない。

 ガラにも無く、イラっとした。

 ここ半年、俺は父さんの考えも思いも、んで考えるようにしていた。

 そんな俺でも……分かんねぇよ。


 他の皆も、黙っている。

 俺と父さんの間に、口を出せないんだ。


「父さんっ」


「――クラウが卒業したら何をしたいか、聞いているだろう?」


「それは……分かるけど、それとなにが」


 クラウ姉さんの夢は応援するって決めたし、ジルさんやジェイルからもそれなりに聞いてるよ。

 でも、それでどうして俺まで卒業なんだ……って事だ。


「言ってみろ。クラウがどうするのか」


 言わなくたって分かるだろ。

 なんでまたそんな事を言わせるんだよ。


「【ステラダ】にある、冒険者を育てるための学校に通うんだろ?知ってるよ……それくらい」


 【王立冒険者学校・クルセイダー】。

 王立ながらも王都ではなく南方の【ステラダ】にあるのは、この【ステラダ】が他国との交流が盛んだという理由らしい。


 冒険者になりたい人は、大勢いるらしい。

 年齢や種族は関係なく、老若男女ろうにゃくなんにょの生徒がいると……ジルさんは言ってたけど。


「……お前はこの半年、頑張っていたな……【クロスヴァーデン商会】から契約従業員としてやって来た若者たち……数十名が、この村で過ごしてもいい。そう言ってくれた」


「うん……」


 ああ、だからもっと頑張らないといけないんだろ?

 この村をもっと発展させて……ゆくゆくは町に格上げだ。

 もともと人口が少なく、無駄に広いこの村に、数十人の若者が移住をしてくれた。それだけでも、なんとも嬉しい事だよ。


 だけどまだ……まだまだなんだよ。

 父さんの変な冗談に付き合ってる場合じゃないんだ。


「そうだよ父さん。だからもっと頑張らないとなんだろ?それとも、早めに卒業して、仕事に集中しろって事?それなら、まだわか――」


「――違う」


 食い気味に、父さんは俺の言葉を途切とぎった。


「……」


 俺は言葉を待つ。

 だって、そうしろって事だろ?

 「黙ってろ」――そう言われた気がしたんだ。


「クラウが卒業したら、お前も一緒に卒業して――村を出ろ・・・・


「……は?」


 今度は完全に……時が止まったんだ。

 俺とクラウ姉さん、コハク……三人の時間が。

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