エピローグ3-1【親として、男として】



◇親として、男として◇


 魔物襲撃の日から……数日がった。

 村自体に被害はなく、人的被害もない。

 それでも、次の日から村の男たちで、村全体をかこう防衛壁を作り始めた。

 当たり前だが、ミオを中心として……だ。

 ミオの魔法……と言うていの【無限むげん】による地面の操作で、数日をかけて壁を作った。

 内側は地面を硬化こうかさせたもので、外側は【ステラダ】から物資が届いたら、鉄製のさくを建てる予定だ。


 アイズの結界は……完全に修復が出来ないという事で、この村に魔物がくることが確定。実際、作業中に一度だけ魔物が来た。

 しかし、クラウがそれを楽々と撃退した。


 村の皆は、ほぼ初めて見る魔物に戸惑とまどいを見せていたが……ミオとクラウ、未来ある村長の子供たちの活躍に喜んだ。

 だが……その村長、ルドルフ・スクルーズは、その胸中きょうちゅうを複雑としていた。


 あの日の翌日、ジルリーネから話をされた。


『ルドルフ。クラウとミオを、冒険者学校に通わせたい』


 そう話を受け、ルドルフはしぶい顔をした。

 親としては当然の事で、だがしかし、ジルリーネの言葉は……魅力的だったのだ。

 これはミオには言わないが、ジルリーネは【クロスヴァーデン商会】からの永続的な支援を約束すると申し出たのだ。


 物資や資金だけでなく、人員もだ。


『――わたしは、これでもエルフ族の王女だ。少しの融通ゆうずうは聞くんだよ。だから、わたしはクラウの夢、そしてミオの未来を応援したい』


 『少し考えさせてくれ』と、ルドルフは悩んだ。

 長男のミオは、てっきり農家を、延いては村長を継いでくれると思っていたからだ。

 勝手な考え、押し付け……いくらでも言える事だ。

 それでも、この小さな村では誰もが当然と飲み込むような未来だった。


 しかしこの数日の作業で、ミオもクラウもが、凄い実力がある事を実感した。

 親としてこれほど嬉しい事はない。

 特にミオは、村の未来をうれいてくれた優しい子だ。

 そんな事を言ってくれた子供たちの未来……親の我儘わがままで縛り付けていいものだろうかと、ルドルフは真剣に考え。

 妻のレギンとも、何度も話し合いを重ねた。


 村の発展作業をするミオも、襲って来た魔物を倒すクラウも。

 どちらも本当にかがやいていた。

 親の自分よりも、はるかに充実した人生を送っているのだと、うらやましくも思った。


 そして更に数日後……クラウがジルリーネと共に部屋をおとずれた。

 話をするのだろう……冒険者になりたい、と。

 もしジルリーネに事前に話をされていなければ、クラウを怒鳴っていただろうかと、ルドルフは笑いそうになった。


 そんな中でも、話はあっけなく終えた。

 ルドルフは、二つ返事でクラウが学校へ通う事を認めたのだ。


 態度としては、確かに不自然だっただろう。

 頑固おやじが「認めん!」と言うように、ルドルフは「勝手にするといい」と、ぶっきらぼうに返事をして、背を向けたのだ。


 クラウはムッ――としたが、ジルリーネに背中を押されて部屋を出て行った。

 その様子を見て妻レギンは「あらあら」と笑った。

 ルドルフの思いも、レギンが分かってくれてさえいれば、まだ救われると言うものだ。


 しかし、ミオに関してはまだ答えが出ない。

 村長の息子として、農家の息子として……跡目をいでほしかった。

 そんな思いは今も勿論もちろんある。

 だがクラウと同じく……その才能を目にして、縛ってはいけないとも思ったのだ。


 だから、夫婦は背中を押すことにした。

 来年……クラウの学校卒業と同時に、ミオも【ステラダ】に送り出すのだ。

 親として、そして同じ男として……夢を、未来を応援することにしたのだった。

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