エピローグ3-2【黒髪の転生者】



◇黒髪の転生者◇


 【リードンセルク王国】――【王都カルセダ】。

 国の首都であり、リードンセルク王家が居を構える都だ。

 都の中心部に存在する王城の一室。

 そこに転がるのは、見知らぬ男の亡骸なきがらだった。


「――片付けておきなさい」


「――は、はいっ!!」


 この亡骸なきがらを生んだのは、王女……シャーロットだ。

 そして、そのかたわらに寄るのは……蠱惑的こわくてきな笑みを浮かべる女神……イエシアスだった。


 従者じゅうしゃが遺体を片付け終えるのを待って、シャーロットは口を開く。


「――これでいいのでしょう?」


「ええ……これで、一人分の能力を回収・・・・・できるわぁ」


 この場で無様ぶざまに死んだ男は……名も知らない転生者だった。

 【女神イエシアス】が、シャーロットを見つけたのは一年前。

 不思議ふしぎ雰囲気ふんいきを持つこの王女を……イエシアスは転生者だとは判断しなかった。


 しかし、その意識は別の世界のもの……この世界のものではないと直ぐに分かった。だからこうしてそばにいる。


 イエシアスは、現在人間の身体を持っている。

 本来、わざわざ神の力を封じなくてもいいのだが……人間を利用して目的を達成する為に、みずか神力しんりょくをを封じたのだった。

 だから、このシャーロットとか言う王女にも視認できる。


(……この女がどうやってこの世界に紛れ込んだのか、調べないといけないわねぇ)


 シャーロット王女は、【女神の転生】とは別の転生者だ。

 だが、【女神の転生】以外でこの世界へ渡る方法は無い筈だ。


 イエシアスは、それこそ世界中を回って転生者を探した。

 そして、可能性がある人物を数人……ピックアップし、試していた。

 先程死んだ男も、その一人だったのだが。

 王女の力にあっけなく殺されたという事は、違うと言う事だ。

 少なくともチート能力があれば、簡単には殺されないだろう。


 そしてもう一つ、イエシアスが仕掛けた策がある。

 自分と同じ女神、アイズレーンが起源きげんとなる場所におもむき、結界を破壊したのだ、【豊穣の村アイズレーン】の。


(……候補の二人がいる村は、今頃さわぎになっている事でしょうし……あとは、時を待つか……他の国に行くか、だけれど)


 主神に命じられた“チート能力”回収の任務をスムーズに行うため、最後に転生の流れを管理していたアイズレーンの起源である場所に行き、そこの結界を破壊した。

 それで、転生者は動かざるを得なくなるからだ。


 イエシアスが次の行動に移そうと、王女のもとを離れようとした時だった。


「――よう。イシス・・・


 その声は、突如聞こえてきたのだ。

 人間体である自分を、名指しで。


「……あら、確か……」


「――誰?」


 一室に、突然現れたのは、黒髪の少年だった。

 イエシアスをイシスと呼ぶその少年は、壁に寄りかかって言う。


「――悪いね、あんたには関係ないんだわ。俺が用あんのは、そこの女神さんだよ……なぁイシス」


 黒髪の少年は、シャーロット王女など眼中に無いように言う。

 そしてイエシアスは、更に興味きょうみが無いように。


「えーっと、何かしらぁ?――【支配しはい】の能力者くん?」


 【支配しはい】――人間、動物、魔物を操る事ができる、服従ふくじゅうの能力だ。


 黒髪の少年は、イエシアスの口真似をして。


「――何かしらぁ?……だぁ?かはは、おいおい……人さまの道具を勝手に持って行っておいて、それはねーんじゃないの?いくら女神さんでも、窃盗せっとうは悪だぜ?」


 心当たりは当然ある。


「あぁ~」


 その間も、シャーロットは少年をにらみ続けていたが……そんな王女を無視して、少年は女神に追求する。


「あぁ~、じゃないって。おかげで能力が半減なんだからなぁ、勝手に使われて、結構大変なんだぜ?いい迷惑だっての」


 【支配しはい】は、能力と道具……二つを同時に使って真の能力となる特殊なものだった。

 それを、【女神イエシアス】が盗んだのだ。

 そしてそれを、見ず知らずの冒険者かぶれの男に使わせた。

 依頼と称し、魔物に村を襲わせるために。


「あらあら、それはごめんなさいねぇ……落ちていたものだから」


「かはははっ!それはそう!……でも使っちゃ駄目だろ」


 まったく悪びれずに、イエシアスは笑う。

 そんな二人のやり取りに、王女シャーロットは機嫌悪そうに。


「――私を無視して話を進めるなんて――死にたいの?」


 ギロリ――と、死をも伝えそうな程の殺意で少年をにらむ。

 しかし、黒髪の少年は。


「――うおっと!すっげえ殺気じゃん、ひぇ〜鳥肌だ!あぁそうか、もしかしてあんたも――転生者そうなのか?」


 黒髪の少年は、「ほっ――!」と小さく口にして窓に飛び乗る。

 そしてそのまま。


「かはははっ!怖いねぇ王女さん!――俺は自分の大切なもんを取り返して、そこの性悪女神さんに文句を言いに来ただけさっ!!そんじゃあなっ……おさらばぁ!!」


 そう言って、窓から飛び降りた。

 ここは五階相当の高さがあるが。


「……なんて頭の悪そうな男かしらぁ。馬鹿丸出しじゃない」


「ねぇイエシアス……あの男、使えるのではな――!?」


 少年が飛び降りた窓から、突然見えたその大きな影に、王女は驚く。

 それは、魔物だった。大きな鳥獣ちょうじゅう……その背に、黒髪の少年の姿があったからだ。

 こちらに「べぇ」と舌を出して、目をひんいて。


「うふふ、あの男は駄目だめねぇ……自由が過ぎるもの」


 おどろいたシャーロットの途中の言葉に、イエシアスは肩をすくめて否定する。

 確かに実力は申し分ない、能力もチート級。

 しかし……自由を願い、正義に生きる。

 そんな転生者……名を――ユキナリ・フドウ。


 この異世界で、日本人として生きる……物好きな男だ。




~ 第3章【反抗期の俺。十四歳】編・エピソードEND~


―――――――――――――――――――――――――――――――

次話に1話分、3章までのキャラクター紹介を挟み。

4章【冒険者学生の俺。十五歳】【冒険者学校・入学】編が始まります。

今後もどうぞ、よろしくお願い致します。

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