3-78【魔物の眼】+用語8



◇魔物の眼◇


 ここは……【豊穣の村アイズレーン】に程近い、西の森林地帯。

 そこに、一人の人間がいた。

 緑色のフードを被り、まるで森の一部となろうとしているような、そんな風貌ふうぼうだ。

 言ってしまえば、溶け込もうとしている。


「――くそっ……気付かれたっ!」


 短く悪態あくたいをつく声は、中年の男だった。

 手に持つ綺麗な水晶には、金髪の少年と少女がうつり、こちらを見ているような言動をする。


「も、戻れっ!」


 フードの男は、水晶にうつる少年に嫌な気配を感じ、魔物に命令をする。

 こっちへ戻って来いと。


 撤退だ。


「……どうするんだっ!あの女・・・が大丈夫だって言うから、この笛・・・を貰ったんだぞっ!!なのに、あっさりやられているじゃないかっ!」


 男は走り出す。

 もう、移動用の魔物を待っている事も出来ない。


 森の木々をき分け、所々を引っ掛けながら……必死になって逃げる。

 方角は更に西、【サディオーラス帝国】内だ。

 この名もない男。手に持つ水晶と不思議な笛……オカリナと見られる楽器以外、何も装備をしていない。

 あとは、隠れる為のフードだけだ。

 どう見ても旅人ではなく、ましてや商人でもない。


「くそっ、くそっ……くそっ!!」


 男は、数日前に女に声をかけられた。

 「いい仕事があるわ」と、その誘惑ゆうわくに乗ったのだ。


 その内容が、このオカリナを使用した……魔物の操作だった。

 男には冒険者の経歴があり、それくらいは楽だと考えたのだ。

 しかし、才能は別だ。


 操作した百体の魔物、言う事は聞くが……どうも動きがぎこちなくなり、思ったように行動をしてくれなかった。

 その理由だけが、未だに分からなかったのだ。

 自分では完璧に操っていると思っていたのに。


「――だましやがったんだっ!あの阿婆擦あばずれがっ!」


 息を切らして走り、大分離れた所まで辿たどり着いた男は、フードを脱ぎ捨てる。

 そのフードに、服のポケットから取り出した薬品をかけた。


「――これで俺の匂いは消える、あとは隠れながら逃げるだけだっ」


 そう言って、ニヤリと笑う。

 依頼には失敗したが、命さえあればいい。

 金はまた稼げばいいのだ。


「へへ……――っっ!!だ、誰だっ!!」


 笑みを浮かべた瞬間、視線を感じた。

 振り向くと、そこには一人の男がいたのだ。


「――あ~あ、気付かれたか。まぁいい……俺の道具、あんたが持ってんだってなぁ、おっちゃん」


「な、なんだ……ガキか」


 少年だ。黒い髪・・・の、少年。

 この世界ではありえない……不気味なほどに黒い髪の、十代の少年だった。




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・【澪から始まる】用語その8

 【丈夫ますらお】。正式名称不明のミオの能力の一つ。

 常時発動型の能力であり、魔力の消費などはない。

 効果は、身体能力の向上と丈夫じょうぶな身体をもたらすというもの。

 それにともない、ミオは一切の運動をすることなく、アスリート並みの筋肉を得た。

 ガチムチの筋肉ではなく、水泳選手のようなスマートな体型になっている。

 筋肉量が増えた事で、腕力や体力も上昇しているのだが、魔力関連のバフはない。

 いわゆるパッシブスキルと言うものに分類される。

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