3-72【豊穣の村防衛戦2】



◇豊穣の村防衛戦2◇


「――うおぉぉぉぉぉぉ!!」


 雄叫おたけびと共に、俺は【カラドボルグ】を振るう。

 標的は、猪型の大きな魔物だ。

 名前は知らんっ!


 砂の壁と、ジルさんとジェイルの攻撃をかいくぐって来た生き残り。

 最初からそういう戦略なんだよっ!だからうらむなよっ!猪野郎っ!!


 ズッ――!!――ドォォォォォン……!!


「……え?」


 俺の目の前には、猪なんていなかった。

 あれ?俺……剣を振るったよな?


「……あれ?」


 うん。確かに地面をえぐってるな……?はて?

 魔物を斬った感覚がないのだが?


「ミオ、少し先を見ろ……左方だ」


「はい?」


 ジルさんの言葉に、俺は左を向く。

 そこには俺に向かって走って来ていた猪型の魔物が、腹に大きな穴を開けて倒れていた。

 そしてその上には、飛行型の大きな蝙蝠こうもりと見られる魔物が、同じく穴を開けて落下してきた。


「――ク、クラウ姉さんっ!?」


 直ぐにさっした。

 クラウ姉さんが、俺が斬る直前に上から【貫線光レイ】を放ったのだと。

 正直な事を言えば……「俺の活躍を!!」だったが。


「――ミオっ……第二波が来るぞっ!!」


 そんなひまはなかった。


「りょ、了解っ!」


 俺の【カラドボルグ】のデビューは、豪快ごうかい空振からぶりでした。

 ま、野球界のスターだって、空振り三振のデビューがあるしな。

 うん、気にしてないし。気にしてないから。気にしてねぇよ!


「……こいっ!」


 各個撃破を念頭に置き、俺とジルさんは魔物を倒していく。

 ジェイルはアイズ、そして上空のクラウ姉さんに注意を払い。

 少しずつ、しかし確かに数を減らしていく。


 ザシュッ――!!


「おおっ……!!」


 何ともあっけなく、【カラドボルグ】の再デビューが終わった。

 斬った感覚なんてほとんど無い。紙を斬ったようだったよ。


 一刀両断。その言葉が一番しっくりくるほど、倒れる魔物の死骸しがいは無残だった。まるで斬られた事に気付いていないようだ。


 魔物を……斬った、【無限むげん】のような能力でじゃない。

 殺したんだ……自分の手で。だが……不思議と何とも思わない。

 前世だったら絶対にいている自信があるけどな。


血糊ちのりすらつかない。すげぇな……【カラドボルグ】」


 切れ味と言うよりも、刀身が魔物の肉に触れていなかったようにも感じたな。

 手っ取り早く言うと、魔物を斬った実感がかないんだよ。


「ミオっ……デカいのが来るぞっ」


「え」


 デカいのってどれ。


「ん?」


 あれぇ……?何だか、急に暗く……まるで、頭上に何か大きなものがあるようだ。


 ハッ――上かよっ!!


「――けろミオっ!【グレートワイバーン】が落っこちてくるぞ!!」


 ジルさんが、割と本意気で叫んだ。


「なっ――ク、クラウ姉さぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」


 俺は怒りの咆哮ほうこうを上げながら、必死にダイブした。

 潰されたらシャレにならん。マジで。

 よりにもよって、俺の真上に落とすなよ!!クラウ姉さん!!

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