3-70【急転する村7】



◇急転する村7◇


 魔物の大群が侵攻しんこうするのは、この村ではない可能性。

 【サディオーラス帝国】の最東端に位置する【豊穣の村アイズレーン】。

 その直ぐ北は、隣国【リードンセルク王国】だ。

 少しの可能性を考えれば、帝国のどこぞの知らない誰かが、魔物を使って【リードンセルク王国】を狙っている可能性もあるという事だ。


 勿論もちろん、それ以外の可能性も考えられるが……今はその説が濃厚のうこうなのだろう。


「絶対に阻止そししてやる……っ!」


「ええ、そうね」


 村を踏み台なんかにさせるかよっ!

 俺とクラウ姉さんの同意見だ。


「ああ、そうだな」


「【リードンセルク王国】が狙いの可能性があるのなら、わたしたちも積極的に手が貸せるからな」


 ジルさんとジェイルも、自分の国が狙われている可能性があるのなら……と、手を貸してくれるらしい。


「――ミオ、私は空に行く・・・・。ミオとジル、ジェイルは地上をお願い」


 クラウ姉さん……空って。

 なんか方法があるって事……なんだろうな。


 ちらりとアイズを見ると、口笛を吹こうとしている……吹けてないよ。

 だけど、クラウ姉さんになんかしたな……お前。


 でも、そうだな……今は。


「……分かった。俺も、今は何も言わないよ」


 お互いに、今は村を守る事を最優先にしないとな。


「……助かるわ」


 そう言って、クラウ姉さんは。


「――【天使の翼エンジェルウイング】」


 静かにはっしたその言葉で、クラウ姉さんの背に光が集まる。

 魔力は徐々に収束していき、その魔力が可視化して、翼を成した。


「――ふっ!!」


 飛翔していくクラウ姉さん。

 下着が見える事なんか気にせず、村の上空に滞空してから、空の魔物をガンにらみした。


「……すっげ……アイズ、お前なにしたんだよ?」


 上を見上げながら、俺は言う。

 横にいる女神様は、ニヤニヤして空に浮かぶクラウ姉さんを見ている。

 本当に……何をしたんだよ。


「あの子に【クラウソラス】の使い方を教えろってきょうは――教えをわれただけよっ!」


 今、脅迫きょうはくされたって言おうとしたよな?

 だけど……クラウ姉さんも、本気で戦うつもりなのか……女神を利用して。


 でも、俺だってそのつもりなんだよ。

 実際、【カラドボルグ】を出した時点で覚悟は決めている。


「――あんた……じゃなくてミオ。もう直ぐ前の結界部分まで魔物が来るわっ……そこまで移動してから、新しい結界を張るから、その間に地上の魔物を駆逐くちくしてっ!!」


 アイズが言う。


「ああ、移動だな……分かった」


 そうなれば、俺たちも移動だ。


「ジルさん、ジェイル……悪いけど、力を貸してくれっ」


「当然だ。魔物が【リードンセルク王国】に向かっている可能性があるのなら、捨て置けんしな」


「ああ……この村の野菜も、守らなければな」


 ジルさんそれは私情では?

 でも、助かるよ。


 俺たちの目的は、魔物の撃退だ。

 村を守る事と、仮定としている……王国に向かわせない事だ。

 そしてあわよくば……魔物を使役しえきしている奴を、探す。





 アイズが言う前の結界の範囲はんいまで到着した俺とジルさん。

 ジェイルとアイズは、後方待機だ。


 ミーティアには、心配だろうが村の人たちを優先して貰った。

 本当は俺かクラウ姉さんが言わなくてはいけない事だが、時間が無さすぎた。

 父さん母さん、レイン姉さんにコハク……アイシアも、きっとミーティアの言葉を信じてくれるはずだ。


「俺たちは地上の魔物を倒す!だけど、二人には空のクラウ姉さんの援護も頼みたいんだっ」


「任せておけ。クラウの事は、わたしが見ておくさ……」


「ああ。魔法で援護をしよう……お前は気負きおうなよ、ミオ」


 分かってるさ。ありがたいよ、そう言ってくれると。

 俺は二人の言葉にうなずいて……徐々に迫ってくる魔物を見たのだった。

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