3ー69【急転する村6】



◇急転する村6◇


 話はまとまった。

 この状況に疑問をいだくジルさんやジェイルには、アイズが上手いこと説明したらしい。

 なのだが……アイズを見るジルさんの目がヤバい。

 キラキラかがやいて、まるであこがれのスターに会った一般人のようだった。


 しかしちょっと気になることが。


「な、なぁジェイル。アイズ、あんたたちに何て説明したんだ?」


 ジルさんに比べれば、然程変わらない感じのジェイルの横につき、俺は聞く。

 するとジェイルは、俺がクラウ姉さんと話していた際のアイズの事を説明してくれた。


「――アイズレーンの生まれ変わりだと、そう言ったな、彼女は」


 生まれ変わり?そもそも本人だけどそれでいいのか?

 それにしても、マジか……アイズの奴、よくそれで乗り切れると思ったな。

 それを信じたジルさんも、よく分からんけど。


「アイズレーンって、女神様の?この村を作った?」


 ミーティアがジルさんに問う。


「ええ、そう仰りました。だけどまぁ、わたしも信じてもいいと思いました……【エルフェリーディア】様の事を、知っていましたからね」


「……だな」


 ジルさんとジェイルがうなずく。


「う〜ん……よく分からないんだけど、二人がそれでいいならいいのかなぁ?」


 【エルフェリーディア】……って、確かエルフの始祖しそだったよな。

 なるほど、それを利用したのか。

 それでこの二人を説得できたのなら、それはそれで正解なんだろうな。


 現状はともかく、二人を信じさせる事に重点を置いたのかアイズの奴。

 アイズって、自分のこと以外は完璧に出来る女神なんだな。

 もっと自分のポンコツを無くせればいいのに。


 そんな事を考えていると、急激に襲ってくる――寒気。


「――うっ……!」


 悪寒だ。

 身体の奥底から、ゾワゾワと……何かが。


「――西の空だ……っ!」


 悪寒の方角を見ると、目に見えて迫る……黒いもやのようなもの。

 身震いに近いそれは、魔物の接近によるものだった。

 まだ距離はあるが、だが……肉眼でも見えるのだ。


「……な、んだ……あのデカさっ!?」

「あれが、魔物……?」


 俺とクラウ姉さんが言う。

 クラウ姉さんは初めて見る魔物に、少し戸惑とまどっている様にも見えた。


 逆に、ジルさんとジェイルは冷静だ。

 助かるよ。


「あの特徴的とくちょうてきな小さな翼……【グレートワイバーン】だな。まさか、使役しえきしているのか?」


 ジルさんが言う。


 ワイバーンって、翼竜よくりゅうって奴だろ?

 あれ……飛べんのは何故なぜ


「なんで飛べるんだろ……あの図体ずうたいで」


 その【グレートワイバーン】と呼ばれた魔物は、ジルさんが言う通り翼が小さかった。しかし身体はそうとう大きく、どうして浮遊しているのかが理解できない。

 俺の疑問にジルさんが。


「うむ、本来のワイバーンは大きく広い翼を持つ竜だ、身体も細い……グレート種は、逆に身体が大きいんだよ。そして魔力が豊富……それで飛べるのさ」


 なるほど魔力か。それを言われちゃ納得するしかない。

 にしても……デカい。


「あんなのが村に来たら、ひとたまりもないわね」


 クラウ姉さんの言う通りだ。

 だから、村に入ってくる前にケリをつける。


 それから、さっきのジルさんの言葉で気になるものがある。


「ジェイル……使役しえきと言うのは?」


「そのままだ。操っている者がいるという事さ」


 それは分かるって。気になるのは、ジェイルが言った「西の国」だ。

 魔物が使役しえきされている、それが西の国から向かって来ている。

 それはつまり、俺たちの自国……【サディオーラス帝国】から来ているという事だろ?この村はその国の最東端なんだから。


「……俺たち、自分の国から攻められているって事、だよな?」


「……え?」


 クラウ姉さんはおどろく。

 そりゃそうだよな、自分の国から攻めて何て来られたら。

 だから俺はジェイルに問う。


「【サディオーラス帝国】……自分の住んでる国が攻めてきた可能性、どうなんだ?」


 俺が転生して今までの十四年で、帝国の軍隊が村に来たことは一度もない。

 村外から来たことがあるのは、そもそも村の出身である商人のディンさんと、ポロッサ・コロロ先生くらいだった。

 思えば、村の為と思って行動している、悪意がないディンさんや、教師の夢があるポロッサ先生だからこそ、村を行き来出来てたんだな。


「ああ、その可能性は無くはない……だが今の帝国は、十数年前に皇帝こうていが代わり、平和になったと聞いていたが。いやしかし、帝国は自国から攻め込むことはしない国柄だ……そんな国が、魔物を使ってまで攻め込んでくるか?……何せそこまでする理由がないからな」


「ならなんで」


「分からん」


「……魔物を使って、村に侵攻?この先は……東の国?もしくは、北しかないよな」


 そうか、この村の先……それは隣の国だ。

 もしも【サディオーラス帝国】が主導でのこの騒動なら、狙いはこの村ではなく、北の隣国の【リードンセルク王国】か、東の国だ。

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