3-64【急転する村1】



◇急転する村1◇


 俺の言葉に、ミーティアは急いで家に戻ってくれた。

 本当は俺が行った方が圧倒的に早いが、このポンコツ女神と話をしないといけない。


「どうしたんだよアイズっ!なんだ、この肌を焼く感覚はっ!!」


 俺はぴりつく肌をさすりながら、地面に手をついてくやしそうにするアイズに声を掛ける――すると、アイズは。


「――結界・・が壊されてたのよっ!!」


「結界って」


「――結界は結界よっ!!この村を守るための、“悪意を遠ざける結界”っ!何百年も続いてたのにっ!なんでこのタイミングで壊されてんのよっ!!」


「……い、いったん落ち着けって!冷静に教えてくれ、頼むからっ!」


 アイズの肩をつかんで、俺は真剣になる。

 そうしないとやばいと……直感で思い始めていたんだ。





 アイズによると、この【豊穣の村アイズレーン】には、自分が大昔に掛けた結界が地下深くに在ったらしい。

 その効果は、「悪意を遠ざける」事だ。


 この村に魔物や人間がなかなかおとずれない理由。

 人間の敵、魔物は勿論もちろん

 人に危害を加える「悪意」盗賊。

 それに、畑を食い荒らす「悪意」害獣。

 一切の動物すらいないのは、その結界が原因だったんだ。


 それがようやくわかった。

 このアイズレーンって女神が、守っていたんだな。

 何も出来ない村人を、その力でさ。


 しかし、その結界が……壊された。アイズはそう言った。

 理由は分からない。

 だからアイズ本人も混乱してしまったらしい。

 だが、一つだけ理解出来る事……それは。


「この感覚……魔物なんだな?」


 肌をぴりつかせるこの感覚、それは……大量の魔物だ。


「そうよ。あたしの結界がある間は、悪意をはじく効果があったから……追い返す事が出来たのよ。だから、盗賊なんかも入ってこれないの。悪だくみをするような人間もねっ」


 なるほどな、村の近くまで来れても、中には入ってこれない。

 だからこの村にはさくすらないのか。

 何らかの形で偶然ぐうぜん現れる以外には、悪意を持ってこの村には来れないって事だ。


 思えば、四年前の盗賊の時も、外に出たのは俺とクラウ姉さんだ。

 二年前の敗残兵の時も、村の外で撃退しているし。

 ミーティアたちを連れて来たのは俺だった。

 自分から進んでおとずれたのは……ジルさんだけだもんな。

 あの人に悪意なんてある訳ないし。


「でも、なんで急に?こんなのおかしくないか?結界が壊されたって、急に魔物が来るわけないだろ?」


「だから……っ!!事前に用意してきたのよっ!!誰かが仕組んだのっ!!」


「――なっ!」


 誰かがこの村に入る為に、魔物を引き連れて来た?

 そんな事、人間にはできないだろ……それじゃあ……まさか。


「今すぐに考えられるのは……この世界の魔族・・、それか――転生者・・・……そして、よっ!!」


「マジかよっ……」


 そのまさかだ。

 くそっ……人がアレコレ考えなきゃいけない時に!

 誰だか知らねぇが……余計な事持ち込むんじゃねぇよ!!

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