3-60【村長として】



◇村長として◇


 父さんの言いたい事も、当然分かる。

 残りの資材の使用を、ミーティアから許可は得たのだろう。

 だが、それは良くない。


 本人がいいならいいだろうと思うかもしれないが。

 それをしたら、これからもそうなる可能性がある。

 頼りっぱなしだ……それは、父さんにとっても村にとってもよくはない。

 父さんが村長をやる意味……無くなっちゃうだろ?


 だって、俺が頼めばいいんだからな。

 ミーティアの事だ、二つ返事で許可を出すだろう。

 当たり前だが、資材だってただじゃない。


 【ステラダ】の町から持ってくる馬車や、馬の餌代えさだいだってある。

 それをタダで使わせてもらうなんて、虫が良すぎるだろ。


「父さん。だから――に指示をくれないか?」


「……ミオ?」


 ガタッ――となったのは、ミーティアとジルさんだ。

 クラウ姉さんは耳をピクリとさせて、俺の様子を見ていた。


「指示をくれれば、絶対にうまくやるよ。村にも、父さんにも損はさせない。俺が絶対に、うまくやりくりするから。だから、近いうちに来るって言う新しい従業員たちの宿舎しゅくしゃ、それも俺に任せて欲しいんだ。頼むよ……父さん。アイズさんも、それまでは少しだけ、我慢を強いることになるかもですけど」


「……」


 父さんは無言で何かを考える。

 アイズは、「あたしが呼ばれた理由はこれ?」みたいな顔で援護攻撃。


「――構いませんわ、ミオくんが好きなようになさってください。お父様も、どうかお気になさらず」


「……そう、ですか」


 父さんは「いったいどうしたんだ?」って顔で俺を見ている。

 急にキャラ変か?ってさ。


 ああ。その通りだ――もう、優等生はやめだ。


 今までのミオ・スクルーズのイメージは、学校の優等生だった。

 でも、今からそれを捨てる。


 ロールプレイはもう――要らないんだ。


 俺は、俺として生きる。

 真に――ミオ・スクルーズとして。


「……う~む。保証は、あるのか?」


「――ない。でも、近い未来……この村に沢山の移住者を増やして見せる。これは、俺の覚悟だからっ」


 だから少ない資金でいい。

 少なくとも、【クロスヴァーデン商会】に借りを作るような選択をしないように、対等の立場に成れるようにしたい。

 いや……するんだ。


「だから、父さん。父親じゃなくていい……村長として、俺に指示をください」


 深く、真剣に……俺は頭を下げた。


「……ミオ」


 俺には、力になれる自信がある。

 その力があると……知ってしまったから。


 自惚うぬぼれはしない、慢心まんしんもしない。

 だから、頼む……父さん。


 頭を下げる俺を、周りも固唾かたずを飲んで見守っている。

 少しの間床を見ていた俺に、父さんが。


「――分かった。資金は出そう……だがなミオ、お前も分かるだろうが、この村の資金はうるおってはいない……【スクルーズロクッサ農園】がもうかっていても、それは村の金じゃない。分かるだろう?」


 俺は頭をあげる。


勿論もちろんだよ。だから、本当に少しでいい……一握ひとにぎりでいいんだ」


 そうだ、資金を出させることは、言わば口実なんだ。

 今後、他には頼らなくてもやっていけると言う宣言を、【クロスヴァーデン商会】……ミーティアに見せる事が出来ればいいんだからな。

 それが、俺たちが……対等になる覚悟だ。


「この二年、【クロスヴァーデン商会】さんにはお世話になりっぱなしだった……ミーティアさん。今回も、私は貴女あなたのお父上に頼る所だった……だが、息子の言葉で目が覚めたよ……すまないね。散々無理を言って」


 父さんがミーティアに向けて謝罪をする。

 ミーティアは、少し困った顔を見せるも。


「い、いえ……私は」


「ごめんミーティア。色々と助けてもらってたの、知ってたんだけどさ」


 まずは、この二年間の借りを返す。

 【クロスヴァーデン商会】にもらった恩を……何倍にもしてな。

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