3-61【男になった】



◇男になった◇


 スクルーズ家のリビングには、夫婦二人が残った。

 ミオは、ミーティアとアイズを連れて外に向かったのだ。

 姉妹の部屋には三人が戻り、ジルリーネとジェイルは隣の家に戻った。


「なぁ、聞いたかレギン。あの子が――俺って言ったぞ?」


「ええ、聞いてたわよ。おどろいたわね」


 息子の変化に、夫婦は戸惑とまどいを見せることなく嬉しそうにしていた。

 のぞんでいたのだ。

 息子……ミオが、自分を見せる事を。


「あの子は昔から、ずっと何かを考えながら話していたもの……溜まったものが、出ちゃったのかな」


「ああ。昔から様子をうかがう様な、本心を見せないような、隠していたいかのような、な」


 だが、ミオは生まれて初めて両親に素を見せたのだ。

 それは転生前の性格なのか、それともミオ・スクルーズの本性なのか。

 本人にも、きっと分からない内に進んでしまったのだろう。


「でもあなた、嬉しそうね……?」


「ん?ああ。男の子だからな、あいつも。生まれて十四年……反抗もしてこなかったいい子が、ああやって親に意見を言ったんだ。そうとう考えたんじゃないか?」


「ふふっ、そうね。真剣だったわ、ミオは。でも……昔のあなたにそっくりよ?」


「おいおい、やめてくれ……って、そうも言えんなぁ」


 別の意味で自覚ありだった。

 その意味は、今のミオの周りだ……アイシアとミーティア。

 昔の自分を見ているようだと、ルドルフは正直に思った。


「あなたも、私とリュナにはさまれて大変だったものねぇ」


「や、やめてくれよ、レギン……」


 妻の意地悪に、ルドルフは顔を青くする。

 今は共同経営者と言う良好な関係とは言え、今更言われても困るだけだ。お互いに。


「うふふ……アイシアも大変ね。立場的には、リュナさんと同じなんだから」


「だ、だからな……?」


 レギンとリュナの場合、双方が村の知り合いだ。

 しかしリュナの娘アイシアは、ミーティアと言う村外の令嬢れいじょうが相手だ。


「親としては、まぁどちらも応援したいけどねぇ……二人共いい子なのだし?」


「な、なぁレギン……聞いてるかい?」


 ふんふん――と一人でうなずく妻に、夫は困りっぱなしだ。


 息子の成長を喜びつつ、将来の義娘も気になるレギン。

 不安に駆られつつも、その様を見るルドルフ。

 ミオの男としての成長は、夫婦にも……ひとときの時間をもたらしたのだった。

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