3-58【クラウとアイズ】



◇クラウとアイズ◇


 ほんの少し前。


「――私の部屋に来て。いや……来なさい、アイズ」


 食事を終えて、片付けが始まったリビング……一言目がこれでした。

 もう、絶対に面倒臭めんどうくさいわ、この人間。


「いいですわよ。ご案内、よろしく」


 そう言って、あたしと転生者……漆間うるま星那せいなは、この子の部屋に行ったのだ。


 三人姉妹の部屋ねぇ。

 小綺麗で清潔せいけつな範囲と……一部が散らかっている場所。

 うん。そこだけ好感が持てるわね。


 その一部に、クラウが座った。

 あんたなのね、前言撤回だわ。


「それで、あんた。ここに何しに来た訳?……目的は何?」


「――直球ねぇ、転生させてあげたの忘れたので~すかぁ?」


 あえてムカつく顔をしてみよう。

 この人間なら、どう出ますかねぇ。


「……」


 ブゥン――


 げげ!!


「ちょ、ちょっと……無言で【クラウソラス】出すのやめてよ~、冗談じゃない……あはは」


 怖い。この子怖い。


「なら早く答えて……【女神アイズレーン】、何しに来たの?イエシアスと同じ目的?」


 イエシアスか……あの女神は、あたしの先輩女神ではあるが、直接の関係はない。

 主神様の命令で、先にこの世界に降りてきているのは知っているが。


 端的たんてきに言えば、あの女神は主神様のお気に入り……神界でも優遇されている。

 だから、女神のままこの世界にいるのよ。

 あたしと違ってね。


「違うわ。あの女神の目的は、“チート能力全持ち”の転生者を探し、そして殺す事よ。そして能力の回収をする事が目的のはずね……でも、あたしは違う」


「じゃあなに?」


「……命令は同じよ。その転生者を探すこと。でも、あたしの理由は違う。あたしの目的は――そいつを守ることよ」


 そうだ。あたしは、あいつをみちびく。

 あたしの目的の為に、あいつを強くする。


「――それは誰?私じゃないでしょ?」


 どこまで誤魔化ごまかせるかしらね。

 噓じゃないけど、あいつの事をバラすわけにはいかないし。


「ノーコメントよ。プライバシーだからね……転生者同士ならともかく、女神が不正をするわけにはいかないわ。あなたも、そういう事に厳しい世界から転生しているのだから、分かるでしょう?」


 ま、あたしは神界で不正しまくったけど。


「確かに、地球出身としては……そうね。プライバシーの侵害しんがい駄目だめだわ」


 地球出身の転生者は、大概たいがいがそう言うのよねぇ。

 小難しい世界だこと。


「でっしょう?あたしはあたしで、目的を果たすために行動するわ。クラウ……だっけ?今世の名前」


「……ええ。前世の名前で呼ぶんじゃないわよ?」


 分かってるわよ。そんな事。

 でも、ちょっと意地悪したいなぁ。


「――あんたの弟に助けられたのは偶然よ。追われていたのは事実だけど」


 そうなのよね。あたしがこの家族の前で堂々と噓を言えた・・・・・のは……あいつも知らない事が起きていたから。


 追われていたのよ、あたしは。

 本当に……ただし盗賊ではなく、使徒にね。

 主神の使い魔……意志のない人形ね。


 そして神のアイテムを使って逃げきって、最終的に落ちたのよ。

 その後は、あいつが決めた設定通りにしゃべっただけ。

 旅人だっていうね。


「この村に居座るつもりなの?人間になってまで?」


「そうしないと、バレるからね~。イエシアスに」


 あの女神はちょくちょくこの村に来ているらしい。

 あたしがとちった失敗だから、あたしの加護がある村に当たりを付けたんだろうけど。そうはいかないわ。

 あいつミオが隠し通している内がチャンス……神にも倒せないくらいに、強くなってもらうわ。


「なら、バレない様にしなさいよ?それで、目的探しにサッサと出て行きなさい。アイズ」


「はいは~い、分かってます~っだ。せ・い・な!」


 ブチ――っという音が聞こえました。

 はい。これが、あたしの頭にたんこぶがあった理由です……ごめんなさい。

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