3-57【それでも、諦めたくない】



◇それでも、あきらめたくない◇


 ミオが外に出て行った。

 本当は、私も後を追おうかと思ったけれど、お義母さまのお手伝いを優先させた。

 そしてそれが――今回の失敗だ。


 ミオの家の中では現在、姉妹の部屋にアイズさんとクラウがこもった。

 何か話があるらしいけど、今日初めて会ったのよね?


 リビングではお義父さまとジルリーネ、ジェイルが話をし、レインさんとコハクちゃんが遊んでいる。

 台所ではお義母さまと私、ミーティアが大量の食器を片付けていた。

 そして、アイシアがいない事に……気付かなかった。


「ごめんなさいねミーティア……お客様なのに、手伝わせちゃって」


 ミオのお母さま。

 私にとってはお義母さまになる予定のレギンさんが、申し訳なさそうに言う。


「いえ、当然です。お食事を頂いたのですから」


 おけに入れられた水で、食器を洗う。

 この村では下水が出来たばかりだが、水道はまだないらしいこの村。

 ミオはもう直ぐ水道も付けるとか言ってたけど、どうするつもりなのだろう。

 魔法や魔法の道具でも、限度はあるだろうから。


「……」


 少しして、気付く――ライバルの存在。

 あれ?そう言えば、アイシアがいない。


「――やられた」


「え?」


 お義母さまに内心を気づかれないように、笑顔で作業をする。


「――あ~いえ……なんでもないです、あはは」


 すぐに洗い物を終わらせる!!





 ミオ、外にいるのよね。

 片付けを完璧に終わらせて、私は外に出ようとする。

 しかし――見えてしまった。


「――ミオ……アイシア……」


 外に出ようとした瞬間。

 小窓から見えてしまった――二人が抱き合っているのを。


 バッ――と、私は背を向けた。

 扉に隠れる様に、小窓から見られない様に。


(な、なんで隠れてるの?)


 そうだ――邪魔をしてしまえばいい。

 そんな汚い心が……一瞬出て来てしまった。

 でも、様子を見て……そんな自分が心底嫌になった。


(ミオ、泣いてる……の?)


 アイシアが抱き寄せるミオが、震えていた。

 出て行けるわけがない。これで出て行ったら、私は最低最悪の女だ。

 ミオの気持ちを……ぐちゃぐちゃにしてしまう。


「……」


 でも、どうしてミオが泣いているのか、私には分からなかったんだ。





「あれ?ミーティアさん、外に行ったんじゃ?」


「あ~、えっと……止めておきました。あはは」


 リビングにいたレインさんに声をかけられて、私は笑って誤魔化ごまかした。

 そしてすぐ後、姉妹の部屋からクラウとアイズさんが出て来た。

 あれ?アイズさん……たんこぶ出来てない?


「ん?ミーティア、どうしたの?」


「え、ああ……なんでも?」


 何故なぜに疑問形。

 私は視線を外に向けそうになった、一瞬だけ。


「……そう」


 クラウが、不意に外に行こうとした。

 私の視線だけで、何かをさっしたようだ。


「――ま、待って!」


 クラウの手をつかんで、ギュッと力を込める。

 震えていたかもしれない。


「……どうして?いいの?」


「クラウ、するどいね……でも、うん。いいの……今は」


 クラウは外を見に行こうとしたんだ。

 私の様子を見て。でも、それをされたら……みじめになるのは私だから。


「ありがとうクラウ……私、あきらめないから。絶対に、あきらめない……」


「――そう。それなら頑張りなさい……まぁ、応援はしないけれどね」


 そう言って、クラウは私の頭をポンポンして、笑いかけてくれた。

 そう、まるで――年上の女性のように。

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