3-55【断れないよな?】



◇断れないよな?◇


 アイズの外堀そとぼりの埋め方は、田舎住みの人間に対しては完璧だったと思う。

 俺たち……村の人間が知らない国の情報に、ジルさんやジェイル、知っているものが居ても関係の無いほどの知識量……これは、上手いとしか言えないよな。

 アイズは詰まる所、言葉たくみだったのだ。


 この村にとって、これは無碍むげには出来ないんだよ。

 それでなくても数の少ない村の人口、若い女性だって少ない。

 それこそ、レイン姉さんやミラージュさんがもうすぐ成人だが、それだけなんだよ。今いる若い……結婚適齢期てきれいきに近い女性は。


 二人以外だと、若くても二十六歳の酪農家らくのうかのご夫婦の奥さんになるな……その時点でもう違うから。


(絶対にポンコツ出すと思って、フォローを入れる準備はしてたけど、要らなさそうだな)


 アイズの話を聞いた父さんは、椅子をギィ――と鳴らして言う。


「それは確かに大変でしたなアイズ殿。このような辺鄙へんぴな村でよろしければ、いつまでも滞在してください。家も、ミオに準備させましょう」


 おいこら、なんで俺なんだよ!

 あれか?俺が昨日、ミーティアたちの家を作ったからか!?

 あれはまだ未完成だっつの!張りぼてなんだよっ!!


 俺の視線を受けて、父さんは。


「……なんだ?」


「……なんでも」


 クソ、なんなんだよ。

 まるで、村長としての威厳いげんの方が大事みたいじゃねぇか。





 話は簡単だった。

 アイズの事は受け入れる……家も準備する。俺が。

 父さんも断れなかったよ。

 これは想定内だったのだが、なんだよあの態度。


 腹立たしい。ムカつく。頭にくる。


 村長として、やらなくてはいけないのは分かるよ。

 俺だって出来ることは協力するさ……だけど、あんな言い方しなくていいだろ。

 まるで俺が、この村で一生暮らしていくような……ような?


 ああ……そうか、そうだよな。

 俺は、この村でスローライフが出来ればいいって考えてたんだ。

 でも、知ってしまった――自分に力があると。

 最初にのぞんだ……異世界転生の夢が、よみがえって来たんだ。


 だから腹が立った。

 勝手に決めやがってと、苛立いらだったんだよ。

 今まで育てて来てもらった事も忘れて、腹を立てていたんだ。

 それこそ子供のように。はは……そうだな、子供だよな。

 十四歳の、反抗期真っ只中の子供だ。


「……外の世界、か」


 いつかこの村を……出るのだろうか、俺は。





 俺は今、外にいる。

 冷静になろうと、空気を吸いに来たんだ。


「――すぅぅぅぅぅぅ。はぁぁぁぁぁぁぁ……」


 今まで何とも思わなかったけど、空気が綺麗になったよな。

 下水が出来て、臭いが無くなったんだ……廃棄物はいきぶつがなく、大気も汚染おせんされていない自然の恵みだ。

 空気はそりゃあ美味いさ。


「こんなことで腹立ってちゃダメだよな……しっかりしないと」


「……ミオ?」


「――!っ……ア、アイシア?」


 ビックリした。

 背後に立ってたわ、アイシアが。


「どうしたの?悲しそう・・・・な顔、してるけど」


「――え」


 悲しそう?俺が……?


 悲しい。そっか……悲しかったのか、俺は。

 腹立たしいんじゃなくて……悲しかったんだ。

 アイシアに言われて初めて気づいた。

 俺は、父さんの俺に対する対応が――悲しかったんだと。

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