3-42【何しに来たんだよ】



◇何しに来たんだよ◇


 【女神アイズレーン】――豊穣神ほうじょうしんとしての力を持ち、その名をかんする村があるほどの神物じんぶつだ。

 その温和でいつくしみのある性格と、恥ずかしがり屋で目立つことを嫌うひかえめな女性。


 それが、この村に伝わっていたアイズレーンの歴史だ。

 その話自体、この村から無くなってすでに何百年らしい。

 しかしここ二年、この村の名は【豊穣の村アイズレーン】へと変わった。


 いや、戻ったが正しいのだろうか。

 今言ったアイズレーンの歴史を、俺の目の前にいる本人に聞かせてやりたい。

 上半身を泥まみれにし、パンツ丸出しで地面に突き刺さった女神さまに。


「――お前、俺を探してたって言ったか?なんで?」


「はぁ?何でって……そりゃあ……あー、えー」


 そりゃあ?なによ。


「……」


 なんとか言えよコラ。


「――あ、会いに来たに決まってんじゃーん!」


 うそ下手くそかコイツ……?

 あ……いや、神はうそけないんだったな。

 ということは、会いに来たってのはうそじゃない。

 でも、本心ではないだろ絶対に。


「あっそ、んでいつ帰んの?今帰ってくれてもいいけど。むしろ帰れば?」


「――なんで帰るのが前提ぜんていなのよっ!いるわよずっと・・・!」


「えぇ……」


 ええぇ……普通に嫌なんだけど。

 しかも人間になってとか言ったよな、それって苦労すると思うよ?この村だとなおさらさ。


「――ねぇちょっと、なんで嫌そうな顔してるのよ……」


「はぁ?だって、嫌だし」


「は、はいぃぃぃ!?女神よ?あたし女神!アイムオーケー??」


 だけどポンコツじゃないか。


「ああもう――分かったってうるさいな。それはいいけど、これからどうすんだよ……俺、面倒見るの嫌だぞ?」


「――え」


 何その顔。捨てられた犬みたいだぞ。

 あ、でも本当にショックを受けてるみたいだわ。


「なんで最初ハナから俺が面倒見る事になってんだよ、嫌だよ普通に」


「うぅ……ぐぅっ」


 な、泣きそうじゃん。

 でも駄目だめだぞ。


「――!!」


 ん?なんか閃いた顔したな。うわっ……笑ってるし。


 そしてこのポンコツは――俺におどしをかけて来たんだ。


「――いいのぉ?そーんなこと言ってぇ。あたし、全部知ってんだからね、あんたが転生者で、元の人物の顔も性格も……どこでどんな生活をして、どうやって死んだかもねぇぇぇぇっ!」


 なっ……コ、コイツ!


「――ぐっ……お前、おどす気かよっ!!」


「失礼ね!交渉よ交渉!どう?バラされたくないわよねぇぇぇぇ?」


 クソが!!コイツ本当に女神かよ!!

 やってる事が陰湿いんしつなんだが!?

 笑顔がウゼェェェェ!泥だらけのくせに、顔がいいのが分かるから余計に腹が立つ!!


「そんなこと言ったって、誰も信じないに決まってんだろっ。転生がどうとか……――あっ!!」


 一人いるんでした!!クラウ姉さんに知られるじゃねぇか!!

 それは駄目だめだ。絶対に駄目だめだ!


「ふっふ~ん。どう?分かったでしょ、立場が違うんですうぅぅぅ!」


 ク、ク……クソがよぉぉぉぉぉぉっ!!

 ムカつくなぁぁぁぁ!!このポンコツ女神がぁぁぁぁぁ!!

 受け入れるしかない状況に、俺は心底思い切り、拳をにぎるのだった。

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