3-40【人に堕ちて地に墜ちて……穴に落ちる】



◇人にちて地にちて……穴に落ちる◇


 流星。流れるそのかがやきは、確かに綺麗で。

 でも、とても嫌な予感を……一緒に持って来た気がするんだ。


「――コハクっ!家に入ってっ!!」


 流れ星の落下予測地点は……恐らく南、村長宅の裏の森だ。

 今朝、俺とクラウ姉さんが稽古けいこをしていた、更にその先だ。


「え~!見たいんだけどぉ!」


駄目だめだ!」


「えぇぇぇぇ!?」


 そんな事言ってる場合じゃないんだって!

 あれは、ただの流れ星じゃない!なんか――やばい奴だっ!


 隕石の落下の可能性もあるけど、絶対に違う。

 流れ星の放つ、不思議ふしぎな光。

 あのオーラ・・・は――魔法だっ!!


「――いいからっ!!ほら、入って!」


 俺は玄関を開けて、無理矢理コハクを押し入れる。


「わっ!ミオ~!――お、お兄ちゃん!!」


「今言っても駄目だめだって!!」


 本当に都合のいい時に使うな「お兄ちゃん」。

 将来が心配だよお兄ちゃんは!

 俺はもう一度、出てこようとしたコハクを家に押しやり、一言。


「――皆に伝えてっ!宇宙から隕石が落下するって!」


「う、うちゅう?……い、いんせき?」


 あ~そうか、天文学は無いのかこの村に!

 せいぜい「おほしさまきれい!」なのか。そう言えばそうだった。


「お星が落ちて来たんだよっ!危険だから、父さんと母さんに言って!いいね!?」


「――は、はいっ!」


 うん。こういう所は素直でいい子だ。

 それを言って、俺は駆け出す。

 走り出した背中に「ミオはどこに――」って聞こえたけど、そこはお兄ちゃんでよかったじゃないか。





 マジでやべぇよ、なんだあれ。

 隕石?だが、まとっているのは魔力だよな?

 ジルさんやジェイルの魔力とは違う。

 なんて言うか、神秘的だ。


「落ちてくる……でも」


 初めは大きいと思えたその光も、徐々に小さくなっているような気がした。

 だが、近付いているのは事実。

 なにか危ないものかもしれないし、魔物の可能性だって無くは無い筈だ。


 だから、今は俺が行くしかない。

 クラウ姉さんもいてくれれば助かるが……俺が転生者だって気付かれたくもないし、まず……気絶してるしなぁ。


 走る俺は、やけに身体が軽かった。

 まるで今までの運動不足がうそのように、能力の加護を受けているかのようだった。


「あれ……?も、もう着いた?」


 自分でも不思議ふしぎだった。

 脚が上がる。腕が振れる。農作業ではきたえられない筋力の活性化。

 それが、俺の身に起きていたんだ。


「――うおっ、わぁぁぁぁっ!!」


 カッ――と、突如光りかがやいた。

 どこからだと目をらし、その光が飛翔してきた隕石だと分かると、俺はその飛翔物をジッ――と見る。

 このまま行けば直ぐ近くに落ちる。

 そうなれば、この近く一帯いったいがヤバい!


「――【無限むげん】っ!!」


 いっその事、超広範囲だ!被害が出ないように。

 最小限に留められるように。

 今残ってる魔力を振りしぼってでも……って、アレ?疲労感がない?なんで?

 そう言えば、あれだけの全力疾走で息の一つも切れてない……俺が?


「いやいや……今はっ!」


 そんな事を考えている場合じゃない!【無限むげん】で地面一帯を軟化なんかっ!更に粘度ねんどを上昇させる!土製のゴムマットだ!!


 強度はMAX。

 範囲も広げるだけ広げた、さあ落ちて来いっ!何だかわからんが!!


 俺の考え、つまりは隕石だ。

 その落下してくるものは、近くまで来ると――声をはっしたんだ。


「――あぎゃあああああああああああああああああ!!おぢるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!だずげでぇぇぇぇぇぇぇ!!」


「――は?」


 そのあほ丸出しの悲鳴は、俺が操作した地面に向かって――墜落ついらくしたのだった。

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