3-39【人に堕ちて地を歩く】+用語6



◇人にちて地を歩く◇


 その時は来た――神の住む国で、あたしは準備をしていたの。

 何年も、何十年も、年百年もだ。


 それを、これから実行する。

 主神様に命じられた使命を逆手に取り、今から人間界に降りるのだ。


 自室には、一枚の資料。

 それは、本来消去されている筈の転生者たちのリストだ。


「――武邑たけむらみお……この男に、あたしはミスって全部の転生特典ギフトを設定してしまった。それがバレたのよね」


 これから、あたしは自分の管轄区域かんかつくいきである村に降りる。

 怪しまれない様に、人間に身をとしてだ。

 うまくいくに決まってるけど……少し不安ね。


「これと、これと……これも持ってこ」


 神のアイテムをかばんにありったけ詰めて、人間になったとしても活動できるようにしないとね。


 あとは……これ。


「――お土産にしたげよう♪」


 野菜や果物の種をポケットに入れる。

 実は一度、間違って下界に種を落としちゃったのよね。


「あの男、それにあの女……まだ村にいるわよね?結構年月がってる筈だけど。村からは本格的に出られない様に結界を張ってたし……まぁ、そのせいで村には魔物も動物も、人間すらも滅多めったに来られないんだけどね~」


 村に転生させた二人の人間。あたしの勝手で。

 それは誰にも知られていないから、まだマシだと言えるけど。


 だが、出入りできる者もいる。

 夢を持つものと……神だ。


「――イエシアスの奴が気になるのよねぇ」


 そう、他の女神だ。

 あたし以外の女神も、人間界に降りて行っている。


 しかも神の力を持ったままだ。

 ねぇあたしだけなんで?って思わない?

 罰だってさ、主神様からの。


 イエシアスは、度々あたしの村におとずれている。

 それは知ってた。

 多分、探してんでしょうね――武邑たけむらみおをさ。

 主神様からの別命で。


 でも、転生者本人が自分で素性を言わない限り、知られる事はない。

 それが神の秘術……転生なのだから。


 ま、あたしは知ってるんだけどね~。


 さっきの一枚の書類。あれは転生者リストだ。

 処分される筈のそれは、あたしが違反をしてまで保管していたものよ。

 あたしの目的……それの為に。


「もう、ここには戻らないのか。ちょっと名残なごり惜しいかな?」


 だからこの書類も、もういらない。

 転生者の産まれ先は覚えた。一部を除いてだけど。

 あたしにとって優先されるのは、武邑たけむらみおだけ。


 あいつがいれば、きっと目的も達成できる。

 ミスがきっかけだったけど、これは役に立つ。


「ふふふ、待っていなさい。あたしの目的の為……あんたにはドンドン強くなって貰うからねっ!」


 そうしてあたしの準備は整った。

 後は、神界から降りて……流星になって村に行く。

 そこから始めるのよ――あたしの物語を。




 ――――――――――――――――――――――――――――――

・【澪から始まる】用語その6

 【強奪ごうだつ】。正式名称【materialマテリアルitemアイテムsnatchスナッチ】。

 自分が倒した魔物が持つ、素材や道具を、100パーセントの確率でドロップさせる能力。更には、その品質は最上級に変化し、個数も数倍になる。

 簡単に言えば、ロールプレイングゲームで出てくる序盤の敵が、隠しダンジョンの敵が落とすアイテムに変化する……だ。

 しかし、その能力は検証不足であり、まだ多くの謎が残っている可能性がある。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る