3-33【胸に熱く滾る思い】



◇胸に熱くたぎる思い◇


 更に強化されたジェイルの速さ、そして影の操作に、クラウ姉さんはついて行っている。

 多分だけど、【クラウソラス】にもあるんだ。

 身体強化のバフが。


「ちょっ、速いっ……見えなくなるっ!」


 ジェイルの高速突き。

 それを、クラウ姉さんは【クラウソラス】の剣幅を増幅させて防いだ。

 まるで薄い紙だが、キチンと防げている。

 そんなことも出来んのかよ……【クラウソラス】。


 転生者の能力は、使用が出来ると分かった瞬間に……それを理解する。

 睡眠学習みたいにさ、いつの間にか覚えてるんだよ。

 ニュータイプみたいだろ?


「――話を聞くと言ったなクラウっ!では、俺の質問は全部答えてもらうっ!!いいな!?」


「――ああもう!分かったわよ!」


 いいのかい?クラウお姉さま?

 それは早計そうけいではありませぬか?


 ジェイルは、また影に潜った。

 クラウ姉さんも色々考えてるんだろうけど、流石さすがにな。

 だが、【クラウソラス】は光の剣……相性は有利の筈、だよな。

 気付けるか?クラウ姉さんが前世でどんな生活をしてたか知らないが、ゲームとかやった事あんのかな?


 クラウ姉さんはジェイルが潜った影に【クラウソラス】を突き刺そうとするが、地面にザクッ――!と刺さった。


「……剣が刺さらないっ!」


 ジェイルがそこにいる訳じゃないからだろうな。

 ジェイルの奴……影を広げることも出来るのか……アレを使えば、俺を捕獲する事も簡単だったんじゃないのか?


「――ならっ!!これでぇぇぇぇ!」


 うおっ……【クラウソラス】が光って……影の中に入った!?


「――ぐっ……」


 まぶしっ……目をらす俺の視界で、遠い方の影からジェイルが飛び出て……いや、押し出されて来たのか?


「――これは、熱光か……」


 熱光……つまりレーザーみたいな感じ。

 今朝、クラウ姉さんが俺に使った【貫線光レイ】か?

 でも今、放射してなかったか?

 まるで拡散かくさんレーザーのようだったぞ。


「そ、そうよ……名付けて……えーっと……【孔雀貫線光ピーコックレイ】!」


 絶対に今考えただろ。

 それにしてはお洒落しゃれだな……俺には思い浮かばないネーミングセンス。


「クラウはセンスのかたまりだな……」


 お、ジルさんもそう思いますか?

 いい名前ですよね。


「……今後も。戦えば戦うだけ、クラウは強くなるだろう」


 あ、そっちか……バトルセンスの方ね。

 俺にも、それくらいの思いがあればなぁ。


 クラウ姉さんには、明確な目的があるんだ。

 だから頑張れる。

 その目的が、きっと戦う事に関連しているからこそ……あそこまで必死になれるんだ。


 でも、残念なことに俺にはないんだ。

 俺には、目標なんてないんだよ……ただ楽しく、吞気のんきに……スローライフが出来ればいいとかさ……それだけだったのに。


 なんだろうな……この気持ち。


「……強く、か」


「……ミオ?」


 ミーティアが俺を気にしてくれていた事、気付かなかった。

 それだけ、俺の目にうつるクラウ姉さんが……まぶしく、そしてうらやましく……見えていたんだと思う。

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