3-32【月光狂4】



月光狂ルナティック4◇


 まだ話の途中ですから。


 はい……ご存知の通り、途中でクラウ姉さんが斬りかかって行きました。

 うん、もう分かってる。

 回復魔法がこの世界では滅茶苦茶に貴重な存在だと知って、これ以上聞かれたくなかったんだろ。

 だから、ジェイルの口を閉じさせに言ったんだ。

 分かりやすいよな……まったくさぁ。


 まぁ俺も今……隣のジルさんとミーティアに聞いたんだけどな。おどろいだよ。

 回復魔法なんて、ゲームじゃ初期スキルとして定番だ。

 実際、魔法が使える世界だと知ったとき、覚えたいと思ったのは回復魔法だし。

 だって、また死にたくないしな。


 でもこれで、二年前……怪我をした俺にアイテムを使って治療ちりょうをした謎が解けたな。

 そもそも、回復魔法自体が誰も使えない魔法だからだったんだ。

 病院だと言ってるのに、治療師ヒーラーがいないのは不自然だと思ってたんだよ。


「……まてクラウ!話を聞けっ!」


「うるさい黙れしゃべるな動け!!」


 ク、クラウ姉さん……どれだけ知られたくないんだよ。

 いや……戦いたいだけなのか?

 あの剣……【クラウソラス】だよな?


 よく見りゃ実体化してんじゃん……薄緑色の……極薄の刃。

 こちらから見れば、物凄く薄いのが分かるよ……まるで紙だ。

 向きによっては刀身も見えるけど、横にされれば見えなくなる。

 もうめちゃくちゃ薄いんだろうな、あの剣。


「待てと……言っている!!」


 あ。ジェイルがちょっと怒ったか?

 なんか感情が乗った気がしたぞ。


 ジェイルは、右手に持った細剣……多分エストックだな。も長いし。

 それをいでクラウ姉さんをはじいた。

 一見すればレイピアのようにも見えるが、あれは突きに特化した両手剣だ。

 それを片手で、あれほどの高速突きを放つんだ……やっぱ強いんだろうな、ジェイルは。


「――だったら戦いなさいよっ!話は後だっての!!」


 いいのかそんなことを言って。

 本当に後で話をしなきゃいけなくなるぞ?俺はごめんだからな?


「いいだろう……ならば、早々に終わらせるっ!!――【月光狂ルナティック】!」


 おっ。重ね掛け?

 ジェイルからはまだ白と黒の魔力が出てたのに……更に上掛け出来んのか、あの魔法。


「お、おぉ……」


 うわぁ……なんだか凄い……霊にたかられてるみたいになってんぞ?

 だけど。


「凄い魔力だ……」


「ああ、あれがジェイルの得意魔法だからな……あれを、四度重ねる事が出来る」


 隣のジルさんが言う。

 あの強化を四度?一度目でも、俺は無理そうだ。


 でも、身体強化か……興味きょうみはある。

 永続で発動する強化があれば……――ん?ある・・


 どこに?分かんねぇ……でも、知ってる。この感覚は。

 そうだ……【強奪ごうだつ】と【譲渡じょうと】、そして【極光きょっこう】のヒントを貰った時の……胸の熱さだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る