3-29【月光狂1】



月光狂ルナティック1◇


 あ~あ。なんで叫んじまったんだろうな。

 俺は、ジェイルに「戦え!」と叫んでしまった。

 クラウ姉さんが勝てるチャンスを、俺が捨てたんだ。


「――おい、いいのか?ミオ……」


「……いいんですよ。このままだと、ジルさんのお兄さんもやばいでしょ?……それに……本気で戦わないと、後でもっと怒りますから、クラウ姉さんは」


「確かに。終いには泣くからな……そこが厄介やっかいだ」


 そうなんだよ。ジルさんも分かってるから、だから言わなかったんだろ。

 きっと、あのまま行けば……クラウ姉さんは寸止めしていた筈だ。


 そしてブチギレる。俺にな。

 だから戦って貰おう、ジェイルに。


「――ジェイル!戦ってくださいっ!僕と戦った時のようにっ!」


 クラウ姉さんからの一撃を返し、跳躍して俺を見るジェイル。


「……いいのか?」


「はいっ!ぶちのめしてやって下さい!」


「――ミオーーーーーー!!」


「!!」


 ひぃっっっ!!今までに聞いた事のない怒声さん!

 びっくりして隣のジルさんにしがみ付いちまった……顔赤いですけど、ジルさん。


 だけど……なんだよ。

 笑ってんじゃんか、クラウ姉さん。





 あの馬鹿おとうとは……本当に姉の気持ちを分かっている。

 私は、きっとこのまま行ったら八つ当たりをしていただろう、ミオに。


「……それ、魔法なの?」


 私を身体ごと吹き飛ばしたダークエルフ……ジェイルの技。

 黒い影?ルナティックって言ったわよね……どういう意味だったかしら。

 月……?狂う?そんな感じだった思う。


 くっ……スマホが欲しい。


「ああそうだ。身体強化魔法……【月光狂ルナティック】。その第一段階……」


 第一……って、まだあるのね。


「でもこれで……真面目に戦ってくれるてことでいいのよね、ジェイル?」


「ああ。指示を得たからな……侮辱ぶじょくした形になっていたな。すまなかった」


「指示って……子供の指図さしずを受けるの?」


 ミオの言葉に、どうしてそこまでするのよ?


「さぁな、分からん。だが、身体が動いた……それでいいさ」


 いいのそれで?大の大人が。

 この人……見た目はクールで物静かな感じだけど。

 もしかして、言われないと何もしない系?実力があっても、それじゃあ苦労しそう。


「……でも、まぁいいわ。戦ってくれるのなら、それで」


「ああ、だが……首を狙うのはやめてくれ」


 気付いてたのなら最初に言いなさいよ。


「――分かった。でも、本気で行くから……」


「ああ……俺もだ――いくぞっ」


 そう言い終えた瞬間には、ジェイルの姿は消えていた。


「――下っ!!」


 【クラウソラス・クリスタル】を地面に向けて振るう。

 正直言って、かんだった。


 ガギャ――!!


 嫌な音だ。

 金属がキリキリいう音。


「気配を察知さっちしたのかっ!やるな……だが」


 ジェイルは剣を持っていた。

 細い……レイピア?でも、結構な長さの剣。


「――うっ……そっ!」


 ハリネズミのようだった。

 私の影から突き出てくる、剣の連続突き。


 速い!でも、何とか見えて……痛ったい!!


「……これもけるか……見事な動体視力だな」


 跳躍ちょうやくしてその場からは影を無くしたが、別の場所の影から出てくるジェイル。

 それズルい。


「……」


 数発かすめた……血なんて、久々に見たかも。


「――【治癒光ヒール】!」


 私は、腕に受けた小さな切り傷に、回復魔法をかける。

 魔法というよりは、【クラウソラス】による能力に近いけれど。

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