3-27【本気のクラウソラス1】



◇本気のクラウソラス1◇


 目の前にいる少女が、俺をうらむのも無理はない。

 俺は、彼女の家族を傷つけた。

 俺がジルを傷つけたように、心に傷を負わせたのだ。

 だから、この身で受けよう……その罰を。


 今の俺がこうしているのは、ジルが俺を許してくれたからだ。

 あの日、俺が任務に失敗をしたと知った王女殿下でんかは、重傷で入院する俺のもとに使者をよこした……その青年は、自分を新団長・・・だと言った。

 その時点で、俺の騎士団長としての役目は終わっていたんだ。

 何の形式も無く、俺は無職になった……自分の覚悟でくにを出て、家族を捨てて目指した地位も……一瞬で無くなった。


 そんなある日、入院を続ける無職の俺の前にジルが現れた。

 包帯に眼帯……俺が負わせた怪我だ。

 病室に入ったジルは、開口一番にこう言った。


『クビになったそうだな。掲示板に出ていたぞ……ざまぁみろ』


 返す言葉も無かった。

 しかし、こうも言う。


『いい機会だ。これにりたら……少しはミオの言ったことを実行して見せろ』


 始め、意味が分からなかった。

 だが、思う……ジルは、俺を救いに来たんだと。

 ミオ……ミオ・スクルーズ。

 俺を破った少年。家族を愛する……少年。


 そうか……ジルは、自分かぞくに恩を返せ……そう言っているのだと気付いた。

 だから、俺はジルに恩を返す。

 【クロスヴァーデン商会】と言う仕事も与えてもらい、ミーティアお嬢様にも許可を得て……俺は、新しい道を行く。





「行くわよっ……構えなさいっ!……え、えっと」


「――ジェイルだ。それだけでいい」


「……分かった、ジェイル……構えてっ!」


 俺は、どうすればいいんだろうか……目の前で、クラウ姉さんとジェイルが向き合っている。戦闘態勢だ。

 初めからこうするつもりだったと知っても、やはり気がかりは……ジェイルなんだよなぁ。


「……行くわっ!【クラウソラス】!!」


 姉さんは【クラウソラス】を出して、低く構える。

 動き出せるようにとの動きだが、どうも獣っぽい。

 言うと絶対怒るから、本人には言わないけど。


「……」


 ジェイルは棒立ちだ。

 いつでも行ける。これが構えなのだろう。

 俺との戦いの時もそうだった。


 だが、それを知らないクラウ姉さんだったらきっと。


「――構えろって言ってんでしょっ!舐めてんのっ!?」


 ほらね?言うと思ったよ。

 クラウ姉さんは本気でジェイルと戦うつもりなんだろう。

 正々堂々と戦って……そうしないと、嫌なんだよな。


「……これが俺の構えだ」


 ジェイルもさぁ……もう少し臨機応変りんきおうへんに対応しろって。

 こらこら、チラチラとジルさん見るのやめなよ。

 授業参観の子供じゃないんだから。


「……あっそ!!ならいいわよっ」


 クラウ姉さんが動いた。

 走り込みの斬り降ろし。

 肩から腹に、袈裟斬けさぎりってやつだな。


「……」


 ジェイルは無言のままそれをけるが、これはあれだな。

 迷ってるな……もしくは命令待ち、ジルさんからのか?


「ふざけてんのっ!?」


「ふざけてなどっ……いない」


 だったら黙って戦ってやってくれ。

 その方が早く終わるからさ。


「……はぁっ!!」


 クラウ姉さんは袈裟斬けさぎりからの切り返しで、斬り上げを行う。

 走りながら。


「くっ……」


 速いな。やっぱクラウ姉さんの最大の武器は、その身軽さだ。

 武器である【クラウソラス】も、当然ながら重量はない。

 それに加えて、クラウ姉さんの体重そのものが軽いのからな。

 重りがない……と言うとブチギレられそうだから言わないが、本当に軽いんだ。

 うん。マジ子供。


 二年前、ジルさんに言われた「威力が軽い」と言う言葉。

 それは、物理にのみ言える事であり、精神攻撃である【クラウソラス】には意味のない事だ。


「……その、剣はっ!!」


 ジェイルも気付いたようだ。

 【クラウソラス】の性能……物理では防げないという事に。


けるのは、確かに正解だけど……そこまで逃げ腰になられたんじゃっ!私があなたに戦いを挑む意味がないでしょっ!!」


 逃げ腰……か。

 そうなのか?ジェイルさんよぉ……


「ちっ……!【魔障壁マ・プロテク】」


 ギャギャギャッッ――!!


「――その魔法っ!」


 だよな。

 何度か模擬戦をして、ジルさんも同じの使ってたのを覚えてるよ。

 不意を突いた【無限むげん】の攻撃を、簡単に防がれたんだ。


「……凄い技量だ。こんな人里離れた村で、お前やミオのような人間が育つとは……世界は広いのだなっ」


 うるせっ。


「うるさいっ!ド田舎で悪かったわねっ!!」


 クラウ姉さんは、いきおいのままにジェイルを押し出そうとする。

 魔法の障壁も、まとめてだ。


「――そ、そこまでは言っていないぞっ」


 言ってるだろ、人里離れたって……その時点でド田舎って言ってるようなもんだよ!あと、エルフだって森出身なんだろ!ブーメランだっつうの!!

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