3-26【ミオが許しても、私は許さない!】



◇ミオが許しても、私は許さない!◇


 俺の思いもむなしく、クラウ姉さんはジェイルに突っかかりそうないきおいでにらみ続けていた。

 おそらく、ミーティアから聞いたんだ……資材を運んできた仲間が、二年前俺と戦って……俺を病院送りにした、その男だと。


「……ご、ごめんねミオ……」


 俺の隣にやって来たミーティアが、ガックリ――とへこみながら俺に言う。

 髪の毛ぼさぼさだけど……寝癖ねぐせじゃないよなきっと。

 クラウ姉さんを止めようとしてくれたんだろう。


「いや、ミーティアのせいじゃないよ。きっと、何もしなくても……いずれこうなったさ……多分」


 俺も多少は思ってたんだ。

 ジェイルはクソ真面目で、一度言われたら曲がれない性格の男だ。


 もしかしたら俺の家族にまで謝罪するのでは……とな。

 その前にクラウ姉さんが知っちまっただけで……結果はきっと同じだ。

 遅いか早いか、それだけさ。

 だから言える事はただ一つ……大事おおごとにするな、だ。


「――クラウ姉さん!その人は、もう【クロスヴァーデン商会】の人らしいから、っちゃダメだよ!?」


「――それは分からない」


 いや、そこは分かれよ!頼むから我儘わがまま言わないでください!!

 だが……ジェイルはどうだ?

 相変わらずのクールっぽい感じで突っ立てるけど。


 コ、コイツ……まさか、命令待ちなんじゃないだろうな?

 あ……ジルさんを見た。


「ふふふっ……」


 ジェイルに見られて、吹き出すジルさん。

 笑っちゃってんじゃんよ。


「……ジルさん。仕組みましたね?」


 絶対そうだ。クラウ姉さんの実力がどうたら言っていたし。

 初めからこうする気だったんだな……このエルフの王女様は。


「――後でひどいぞ……」


 俺がぼそりと言った言葉に、長い耳をビクンとさせて。


「ひゃうっ……――い、今のは!……ミオ、お前……ドンドン隠せなくなっているぞ!いいのかそれ!」


 もうジルさんにはいいよ。

 あと、顔赤くしないでくれ。

 「ひゃうっ」って、完全に違う意味になっちゃうから。


「ま、まったく……末恐ろしい男だな、お前は。鳥肌が立つぞ」


 自分の身体を抱き寄せる様にすんのやめて、胸に目が行っちゃうから。


「……ほら、始まりますよ。見なくていいんですか?クラウ姉さんの今の実力……知りたいんでしょ?」


「お、おお……そうだった。興奮こうふんしている場合では無かったな……」


 その興奮こうふん、絶対性的だろ?

 ジルさん……もしかしてドMなの?





 背の高い褐色かっしょくの肌のエルフ。

 ダークエルフって言うんでしょ?覚えたわよ。


「私はクラウ。あなたがイジメた……ミオの姉よ」


「……ジェイル・グランシャリオだ、その件は――」


「――問答無用よ。剣士に言葉はいらない……ジルの言葉だから」


 私に戦い方を教えてくれたジル。

 作法や礼節れいせつ……それはどうでもいいけど、それでもこの二年で、上達したつもり。


「それもそうか。俺が教えた言葉だしな……」


 ジェイル・グランシャリオ。

 私は許さない。ミオが許しても、私は許さない!

 大切な弟に大怪我をさせた相手を……お姉ちゃんが許せる理由わけがないっ!!

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