3-25【作業開始!の前に】



◇作業開始!の前に◇


 つ、着いた……荷馬車に乗って、村の北口から東南にある村長宅、つまり俺の家まで資材を運んだ俺たちだったのだが。

 俺はもう、マジでくたくただよ……いろいろ考えさせられるわ、頭ぶつけるわで、テンションガタ落ちです。


「う~む……こ、腰が痛いな」


 流石さすがにジルさんも身体が痛そうだ。

 すべては、荷馬車を操っていたジェイルと、このド田舎の道が悪い。


 よし、あとで【無限むげん】を使って整備しようじゃないか……これ決定な。


「……すまん」


 申し訳なさそうにするジェイル。

 しゅん――っとしちゃってさぁ、イケメン台無しだぞ。


 あれ、この人……もしかしてメンタル弱いんじゃないか?

 ここに来てから謝ってばっかだぞ?


 もしくは……命令されて、そこに生き甲斐がいを生むタイプの……根っからの従者じゅうしゃだ。


「もういいですって。俺……じゃなくて、僕はもう怒ってませんよ、ジルさんが許したなら、それでいいです。だって、もうアンタは襲ってこないんでしょ……?」


「ああ。それは約束する……俺は、今後お前を狙わない。ジルとの約束だからな。今ここにいる事が出来るのも……ジルが俺を見つけてくれたからだ」


 二年前。俺がアンタを倒した後……きっと何かあったんだろうな。

 さっきも入院がどうとか言ってたし。


 でもそれが、アンタがここにいる理由なんだろ?

 ジルさんとジェイル……二人の家族の話に、俺が何か言える立場じゃないからな。

 だけど、もう二度と妹を泣かせるなよ……それで、許してやるよ。


「――分かりましたよ。じゃあ……握手あくしゅをしましょう」


握手あくしゅ?」


「はい。仲直りです」


 俺はそう言って、ジェイルに右手を差し出す。

 仲直り……って言うほど仲いい訳じゃないけど、親交のあかしだ。

 黙って受けろ、イケメン。


「……ああ。よろしく頼む、ミオ」


勿論もちろんですよ……ジェイルさん」


 アンタがもう二度とジルさんを、家族を裏切らないなら、俺は何も言わないよ。

 今後はよろしくな、イケメンダークエルフさんよっ。





 さてと、作業を始めたいところだけど。

 何とも言い難いタイミングで、家からクラウ姉さんが出て来た……後ろにはミーティアもいる。


「……」


 あ、あのー。クラウ姉さん?

 怒ってません……?めちゃくちゃ不穏ふおんなんだがっ!!

 あ!ちょい待ち!もうこれ確定だ!ジェイルに向かうつもりだろ!?

 分かっちまったよ!ミーティアに聞いたんだなっ!?


 ヤバいヤバい!せっかくいい雰囲気ふんいきなのに、クラウ姉さん……ジェイルとおっぱじめる気だ!

 もう顔で分かるんだよぉぉぉぉぉ!!


「……(ガンにらみ)」


「……」


 すんげぇジェイルをにらんでる……止めねぇと。

 ジェイルもさぁ、なんか言えよ!


「……クラ――」


「待てミオ」


 ちょっ!って……ジルさん!?

 俺はクラウ姉さんを止めようとしたのだが、ジルさんに腕をつかまれた。


「安心しろ。いい機会だ……これで今のクラウの本気も、見れるだろうしな」


「……そ、そんなぁ」


 もうさぁ、作業する気あんの?この人たち。

 冷汗を掻きそうな俺の心配などつゆ知らず、クラウ姉さんが……ジェイルに挑むらしい。

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