3-24【嫌な疑惑】



◇嫌な疑惑◇


 シャーロット・エレアノール・リードンセルク王女様。

 何度も言うけど、俺はマジで知らないよ。

 当たり前なんだけどさ。


「命令とは言え、馬鹿な事をしたと……ジルに何度も言われた。自覚もしている……すまない」


 だけど、このジェイルの話を聞く限り。

 王女の言い方は圧倒的に不自然だ。

 当時の俺は十二歳、そして王女は聞く限り、十一歳だ。

 それを「あの子供を連れて来い」?言うか?そんな事。


「謝罪はもういいって……でもな。命令だった、じゃあ仕方がない……って言いたいけどさ、何も考えないのは……魔物と同じだぜ?騎士さん……」


「くっ――まったくその通りだ。申し開きも無い……」


 馬車を操作しながら、ジェイルは申し訳なさそうにつぶやく。

 後ろの座席でジルさんが笑いをこらえてるが……いいのか兄貴。


「でも、アンタは本当にいいのか?こんなド田舎にいてさ……最初はまた俺を狙って来たのかと思って構えちまったけど……ジルさんと一緒って事は」


 あ。まさか。

 その答えは、ジルさんが面白おかしそうに言う。


「――こいつはな、あの日ミオに負けて……速攻で王国騎士団をクビになったんだよっ。団長なのになぁ!傑作けっさくだろう?ミオ、はっはっはっ!」


 わ、笑えねぇよ。

 今、日本で職を失ってみろ。お先真っ暗だぞ?

 ジルさんは、相手が兄貴だから笑ってるんだろうが……俺は笑えん。


 えっと、無職なの?このイケメンダークエルフさん。

 なんだか急に可哀想かわいそうに……


「なんだか急に可哀想かわいそうに……」


 あ。口に出てた。


「……くっ!」


「あはははは、いいぞミオ。もっと言ってやってくれ!それくらいやっても、罰は当たらないからなっ!なんならわたしが痛めつけられた分も、ミオが代わりに言ってくれてもいいんだぞ?」


「ジル……お前にも何度も頭を下げただろう……俺は入院していたと言うのに」


「あはははっ、そうだったな。だがそれはそれだ」


 ジルさん本当に楽しそうだな。

 もしかして、今回ジェイルを一日待機させたのって……ガチの仕返しじゃないのか?


 今ジルさんも言ったけど、マジでボコボコにされてたからな……二年前。

 ん?……いやでも、ジェイルは騎士団をクビになったんだろ?なら、別に話してくれてもいいんじゃないか?


「なぁジェイル……さん、聞きたい事あるんだけど、いいか?」


「――なんだ?」


「二年前。シャーロット王女に命令されたのは分かったけど……なんでかは分からないんっすよね?」


「ああ、そうだな。教えてはくれなかった……」


 思い当たるふしはあるんだ。

 あくまで可能性だが……何かを見抜く事が出来る能力を持っている。


 もしくは、彼女が――転生者そのもの……だって事だ。

 そう考えると、嫌な予感しかしないが。


 もしも、シャーロット王女が転生者で、何らかしらのチート能力を持っている。

 その能力が“転生者を見分けられる”だったと仮定して……俺を、転生者だと……分かっていたのではないか?


 可能性には過ぎないのだが、もうシャーロット王女には会いたくないな。

 初めは異世界万歳ばんざいだった俺も、こんなド田舎転生してからはさ……もう悠々自適ゆうゆうじてきにスローライフを送れればいいんだ、と。

 そう思ってんだからな……今更、邪魔は止めて欲しいものだね。

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