3-17【成長するもんっ!!】



◇成長するもんっ!!◇


 クラウ姉さんとの突発的な朝稽古あさげいこを終えて、家の敷地裏から帰ろうとする俺とクラウ姉さんに、どこからか拍手はくしゅが届いた。


 パチパチパチパチ――と。


「……ジルさん?」

「――ジルっ」


 ジルリーネ・ランドグリーズ。

 ミーティアの専属護衛であり、【リューズ騎士団】と言う騎士団の自由騎士。

 彼女はクラウ姉さんに敗北を教え、俺に魔物との戦いを教えてくれた恩人だ。

 内心では師匠と呼んでいる。勝手に。


「見事だったよ。二人共成長しているな、感心だ」


 後方腕組みですか、大物感が出てますね。


「おはようございますジルさん……早いですね」


「はぁ……なにを言うか。もう直ぐ仕事の時間だぞ?」


 え、マジで……?そんなに時間がってたのか。


「す、すみません……!」


「いやいいよ、修行も大事さ……なぁクラウ」


「……ええ。勿論もちろん


 ん?……なんでクラウ姉さんに言うんだ?

 それにしても、なんとなく含みのある感じだな、気になるじゃないか。

 俺の考えなどまるで気付かないジルさんは、俺に向けて言う。


「それよりも、随分ずいぶんと魔法の出が早くなったなミオ。もう視線で操る・・・・・物体を見なくても、出来ているじゃないか」


「あ、あはは……まぁ」


 バレテール。


 その通りだ。

 【無限むげん】を発動する時、俺は無意識にその対象を見てしまうくせがある。

 脳内で、“そこにある”と認識さえしていれば発動は出来るのだが、つい見ちゃうんだよな。

 でも、もしかして二年前からバレてました?


「それとクラウは……相変わらず負けず嫌いすぎるな、少しは受け入れろ」


「――無理」


 はい即答。

 知ってたけどさ。


「それにしても、二人共大きくなったなぁ……ミオにいたっては、そろそろわたしに追いつくのではないか?」


 ジルさんは寄って来て、俺とクラウ姉さんを並べて自分を比べる。


「――ちょっとなにそれ、嫌味!?」


「はははっ。怒るな怒るなっ!」


 クラウ姉さんはジルさんの言葉に嚙みついた……理由は簡単で、二人と言われた事に嫌味を感じたのだろう。

 なにせ、クラウ姉さんの身長は伸びていないのだから。


 二年前は俺とほぼ同じ身長だったのだが。

 俺がこの二年で急成長をした反面、クラウ姉さんは不動。

 十五歳から変わらず、146センチのままだ。

 俺とは約20センチの差が出来ている。


 比較対象が少なくて分かりにくいが……レイン姉さんも155センチから変わっていない。

 レギン母さんも157センチで、ミーティアも多分それくらいだな。

 妹のコハクは138センチ、平均よりも少し高いくらいだな。

 それに比べたら、ジルさんは170センチ以上はあるから。カッコイイマジで。


「私もいずれジルを越すし……!」


 クラウ姉さんはにらむようにいじける。

 う~む。ジルさんは胸も大きいからはええるけど、クラウ姉さんが同じくらいの身長になったら……壁では。


「ははは、頑張れ。いいものだぞ?見下ろすのも」


「ジルさん、余り変な事言わないで下さいよ、この人本気にしますから」


 マジでな。


「はっはっはっ。すまんすまん……気を付けよう」


 うん。頼むよ。

 それにしても……クラウ姉さんは本当に残念な成長だった。

 身長は伸びないし……ほら、うん……胸も二年間、微動だにしてないから。

 むしろ、コハクに越されるのも時間の問題なのではないかと思わせる。

 下手をすれば、小さくなってるかもしれない。ご愁傷様しゅうしょうさまです。


「……(ギロッ)」


 げっ……にらまれた。

 するどいんだよなぁ、相変わらず。


「――少しは大きくなってるし。前世よりも小さいとか……死にたい……うぅ……」


「……クラウ姉さん?」


 やべ、なんか言ったか?


「――なんでもない!!」


 おわっ――っと……い、いきなり大声出さんでくれ。

 鼓膜こまく飛んじゃうでしょ?

 そんなクラウ姉さんの悲壮な成長も、戦いに関しては別なんだ。

 見て分かっただろ?この人、何を目指してここまで強くなったんだよ、いったいさ。

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