3-16【朝稽古3】



朝稽古あさげいこ3◇


 現在、俺とクラウ姉さんによる朝稽古中。

 俺がクラウ姉さんに向けて、【砂の壁サンドウォール】と言う技を使った所だ。


「――あ、ミオぉぉ――!!」


 バタムッ――!!


 四方からピラミッドのように出て来た砂のかたまりは、クラウ姉さんを取り囲んで閉じ込める。

 大成功だ。俺の目の前には、砂の壁がたたずむだけ。


「ふふふ……安心してよクラウ姉さん。クラウ姉さんが剣の出力を抑えてるように……僕も魔法の力を――」


 勝ちを確信して余裕を見せる俺だったが、そんな勝利者の権利など、一瞬で。


 ザッシュ――!!

 す、砂の壁を貫通してきた!?

 そうか……【無限むげん】が俺の魔力で動いているから、魔法判定になってるのか!


「――げっ……!?」


 ちょっと待て、まだセリフの途中でしょうが!!


「……ぐぐぐぐぐぅぅっ」


 【砂の壁サンドウォール】をめちゃくちゃこじ開けようとしてる!!

 なんなのこの人!脳筋ゴリラかなんかなのか!?


「ミ~オォォォォ!!」


 怖い!隙間からガンにらみにして来るんですけど!!


「ク、クラウ姉さんがいけないんだよっ、いっつも僕を練習台にするからっ!」


 だから、たまには大人しく負けてくれよ。

 俺も意地になって、【無限むげん】で砂の硬度こうどを高めていく。

 せっかく抜け出しやすいように数値を低く設定したと言うのに……意味のない事を。だよな。


「開けなさいミオ!お姉ちゃん、怒るよっ!!ぐぐぐぐぅぅっ」


「もう怒ってるじゃないか!んぐぐっ……!」


 俺とクラウ姉さんは、たがいに譲らず能力のせめぎ合いだ。

 光の魔法の剣と、物体数値操作。

 最大まで数値をいじれば、確かにこの場は勝てるだろう。この場は。

 それでは、後が怖すぎるだろ?


「クラウ姉さん!いい加減に負けを認めたらいいよ……っ!」


「ミオこそ、お姉ちゃんを怒らせたくなかったら魔法を解除しなさい!」


「「むぐぐぐっ」」


 だぁぁぁぁ!そろそろ魔力がキツイ!

 普通に一瞬で数値をいじる事ならそれほどの消費はないんだが……連続使用は身体に来る。


 もう頭痛がする……いってぇぇぇ!


「隙ありっっ!」


「やべっ……」


 俺の集中力がほんの少しだけ途切とぎれた。

 その一瞬を見抜いて、クラウ姉さんは【クラウソラス】の出力を上昇させた。


 俺は咄嗟とっさに離れる。

 思い切り後方に跳ねて、【クラウソラス】の範囲外に出た……つもりだったのだが。


「――【貫線光レイ】!!」


「……はっ?」


 ギュン――!!っと、まばたきも出来ないほどの瞬間。

 【クラウソラス】の先端から、光線が放たれたんだ。


 俺の知らない技……魔法だった。


 ドン――!!


「――がっ!!」


「……あ」


 あ。って言ってんじゃん……当たっちゃったやつやん。

 光線は、俺の肩をつらぬいた。

 そのまま真っ直ぐ飛んで行き……やがて、宙で霧散むさんした。


「――ミオっっ……ご、ごめん、大丈夫……?」


 肩を押さえてうずくまる俺に、クラウ姉さんはダッシュで駆け付ける。

 これは本気で心配してるやつだな。


 だけど、思ったよりは痛くはない。

 貫通したとはいえ、物理的な痛みもないし……これは【クラウソラス】の精神ダメージを、遠距離攻撃に変換したってことなのか?


「……痛いよ、クラウ姉さん」


「ご、ご、ごめん……なさい……」


 シュンッとしちゃってまぁ。

 これくらいのしおらしさが普段からあればねぇ?


「罰だね。これは」


「え?ば、罰……?」


 そうだな。掃除でも代わってもらうか。

 それが、おれに出来る小さな反抗はんこうだよ……姉さん。

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