3-3【アイシア・ロクッサ】



◇アイシア・ロクッサ◇


 俺は外に出て、幼馴染を待つ。

 登校の待ち合わせだな。

 引っ越した事によって、俺の家はアイシアの家に近くなった。

 元の村長宅を解体し、そこにスクルーズ家の新居を建てた。

 村の東南に位置するから、ロクッサ家と近いんだよ。


「……ふぅ」


 父さんは、最近農園の方に行く事が多いんだよな……農園には少し大きめの小屋が建てられて、従業員が寝泊まりする事が出来るようになっているのだが、俺の父ルドルフは、仕事が忙しい時は帰らない事もあるんだ。


 仕事が忙しいのは分かるし、いい事なんだけど……身を入れ過ぎなんだよな。

 従業員もこれから増えるから、手間も多いんだろうけどさ。

 村長の仕事もしっかりやっているし、文句は言えねぇんだ。


「――ミオ。お待たせ」


 考え事をしていたら、幼馴染……アイシア・ロクッサがやって来た。


「……いや、僕も今起きたんだ」


 本当はさ、俺が迎えに行くのが格好いいと思うよな?

 でも、この子はそういうことをのぞまないんだよ。

 「え?いいよ……遠くなるし、私がミオの家まで来るから……」そう言うんだからさ。


「そっか。じゃあ、行こっか?」


「ああ、うん……ん?ガルスは……?」


 幼馴染はもう一人いる。

 ガルス・レダン。男の幼馴染なんだが……今日いない。


「ガルちゃんはクラウさんの所に行ったよ……シュギョーするんだって」


「あ~好きだなーあいつ……」


 クラウ姉さんの事が……な。

 ガルスとクラウ姉さんは、二人だけの警備隊だ。


 俺もたまに手伝うけど、基本的には二人で村を守ってるよ。

 たまに出る……害獣からさ。


「……」


「……ん?」


 あ。隣で歩くアイシアを、つい見ててしまっていた。


「な、なんでもないよ……」


 綺麗になったんだ。十四歳……前世的に普通に考えたら中学生だ。

 でも、とても大人びたよ……アイシアは。


 どうやら、アイシアはレイン姉さんを意識しているらしい。

 なんと、俺の好みに合わせて来たんだとさ……なにせ本人から聞いたからな。


 それを言っちゃう所が、アイシアなんだもんな。

 そんな落ち着いたアイシアも、月一でミーティアが来た時だけは豹変ひょうへんだ。

 もうにらみ付けるわ文句を言うわで……怖いです。


 でもさ、それは……二人の間の意識なんだよな。

 ミーティアもたまにしかこれないし、その時はすごく張り切って来るんだ。


「ねぇミオ……」


「ん?どした?」


 身体をかたむけて、俺を見上げるアイシア。

 首には、二年前に俺が買ってあげた【マジカル・キューブ】が下がっている。

 大切にしてくれていてよかったよ。


 あと、魔法は発動していないから。

 つまり俺は、だまされたんだよ。

 がっかりだ……高かったのにな。

 それでも、別に道具屋のディンさんが悪い訳じゃない。

 だってあの人は……仕入れの時点で、俺よりも高額の金を払って仕入れてたんだからな。


「ほら、これ見て?」


 オレンジ色の頭を見せるアイシア。

 耳の上付近に、何か飾りが付いていた。


 さっきまでは反対側にいて見えなかったけど……これは、ヘアーアクセサリーか。雪の……結晶かな?

 結構見るタイプのアクセサリーだけど、アイシアのオレンジ色の髪に合っている。

 夕日の雪って感じだな。


「可愛いね、それ……似合ってるよ」


「えへへ、うん。ミオならこれを選ぶかなって」


「なにが?」


「ううん……なんでもっ」


 俺も、これくらいの事は言えるようになった。

 アイシアを許婚いいなずけだと知って向き合う事にしてから、本当に真摯しんしに対応してきた……つもりだ。


 たまには喧嘩けんかもするが、それだって俺が謝って終わりだからな。

 だってさ……やっぱり、嫌われたくはないだろう?

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