3-1【俺だって、男だ】



◇俺だって、男だ◇


 まるで思い出させるように、前世の事を夢に見た。

 自分が刺される瞬間の、言わば悪夢だ。

 スローモーションのように、ゆっくりとその刃は俺の胸に迫る。


 あーこれは死ぬわ。

 うつろな瞳を、まるで俺の後ろに向けているように。

 そう言えばアイズレーンが言ってたっけ、俺……勘違いで刺されて死んだんだ。

 しかしこの夢で見ると、勘違いと言うか……まるで障害物だな。


 あの地雷系メイクの女……よく見るとめっちゃ若いじゃないか。

 どうしたら、その若さでそこまでの殺意を持てるんだよ。

 何か嫌な事があったのか?誰かに何か……そうか。向こうにいる男か。


 たまったもんじゃないな。

 ただの通行人が、振り向いた瞬間刺されれて、肋骨ろっこつ貫通心臓一突きだぜ?


 どれだけの復讐心で行動したんだよ。俺には理解不能だね。

 勝手な理由だよな……人を殺しておいて。

 でも、もう会う事もないだろ。だって俺は異世界に転生したんだ。


 しかし赤ん坊からのスタート、しかもド田舎。

 やる事も限られる中で、ようやく十二歳……いや、もう直ぐ十四歳なんだよな。

 赤さん時代からの苦労に比べれば、ファンタジーをしているのではないだろうか。


 温かい家族に可愛い幼馴染。

 運命の出会い……なんては言えないけど、青い髪の綺麗な女の子とも出会った。

 女神に振り回されてる感じもいなめないが、十三年を生きて来た。

 もう直ぐ前世の半分か、長いようで短かったな。


 今後はどうだろう。

 俺はもう、このド田舎でスローライフをしていくものだと思い込んでた。

 農家の息子だし、時間がゆったりとした村の中で、幼馴染かお嬢様か、そんな贅沢な二択を迫られて。


 いっそ二人共……だなんて考えた時もあったが、そんな不条理は認められない。

 そんなルールはないんだからな。絶対にどちらか……アイシアかミーティアのどちらかと、俺は恋愛……出来んのかな。充実のスローライフなんて……目指せるのかな。





 あれから――二年の月日がった。

 あの日……あの戦いから、俺は完全にミオ・スクルーズになったのだと思った。


 二年前、退院して村に戻った俺は……案の定クラウ姉さんにボコボコにされた。

 まぁ言葉だけであれだけどさ、心配させてしまったんだという事で、心をボコボコにされた……って事な。

 レギン母さんもコハクも、とても心配していてくれていてさ、申し訳なくなった……でも、同時に思ったんだ。

 やっぱり、家族は最高だ……って。


 もう心配をかけたくないよ……だから、この二年……俺は余り行動をしなかった。

 と、言うよりも、実態は……クラウ姉さんからの監視が更にきびしくなってさ。


 特に語るようなことがないまま……一年、そして二年。

 本当にあっという間だった。


 軽い出来事を言えば、どれだけ語っても時間が足りないけどさ。

 ミーティアとの事だったり、アイシアの事だったり……色々さ。


 でもって……更に過保護になった二人の姉と、心配性の属性がついてしまった妹に囲まれた二年間だ。

 窮屈きゅうくつ!!ありがたいけどマジで窮屈きゅうくつだった。


 その間もアイシアとは学校で毎日会い。

 ミーティアは一ヶ月に一度は村に来てくれて、会っていたよ。


 まぁ、その話はそのうちにするとして……俺、ミオ・スクルーズは十四歳になった。もう……男と言ってもいいかも知れないな。


 身長は165㎝。サラサラだった金髪は、遊びを入れて跳ねさせたりもしている。

 後ろ髪も伸びて、少しだけ結んでいるんだ。


 まぁ、そうだな。

 色気づいている……そう言われても仕方がない。

 返す言葉もねぇよ。


 それに怒ったのが……父さんだった。

 もう血管ブチっ――て来たね。俺だって、せっかくいいお顔を手に入れたんだ。

 正直言って色々遊びたい。


 勿論もちろん、女遊びじゃないぞ?自分を育てたいだけさ。

 だってそうだろ?前世では、髪を遊ばせたことなんてない。

 染めた事だってないからな。


 だから俺はルドルフ父さんに――「いいだろ!!うるさいっ!」って……キレた。

 反抗期……なのかな?


 家族が大事なんじゃないのかって?

 大事さ……でもそれとこれとは違う。


 前世ではなかったからな、そういう機会すらもさ。

 レギン母さんは「仕方ないわよ、お年頃だもの」と理解を示してくれていたのだが、父さんは何故なぜか、「男は素のままが一番だ!」と言い張っていた。


 あんた昔、遊んでたんじゃなかったのか?なんでそんな昔気質むかしかたぎな事言い出すんだよ……って思ったけどさ。


 そうだよな。父さんは……この【豊穣の村アイズレーン】の、村長なんだもんな。

 二年前……正式に、この村の名は【豊穣の村アイズレーン】となった。

 その案は、【クロスヴァーデン商会】の会長さん、ダンドルフ・クロスヴァーデン会長が申し出てくれたんだ。


 数ヶ月かけて、色々と準備もしてくれてさ……契約の時に色々あったらしいけど、それは会長と父さんの話だからな。詳しい話は知らないんだ。


 そして、その野菜だ……もう絶好調、絶好調も絶好調だ。

 【クロスヴァーデン商会】の物流ぶつりゅうは凄いの一言。

 【リードンセルク王国】の他にも、様々な近隣諸国に売り出してくれて、もうウハウハのガッポガポですよ……農業金持ちって奴だな。

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