エピローグ2-1【呼び捨て】



◇呼び捨て◇


 目を覚ますと、そこは見知らぬ天井てんじょうだった。

 動かすことの出来ない両腕に、すがるようにくっつく女性がいた。

 ミーティアさんと……レイン姉さんだった。


 あれから、何日ったんだろう。

 し、死ぬほど腹減ったなぁ……


「ミオくん……?」


「ミオっ!」


 がばちょ――!!っと、レイン姉さんがおおかぶさってきた。


「ふぐっ――い、痛いよ……レイン姉さん」


「バカバカバカバカバカ!ミオの馬鹿!!お姉ちゃんを心配させてっ!お父さんも……ずっと寝ないで……うぅ……よか……よかったぁ……」


「……ごめんなさい」


 本当にごめん。

 心配どころじゃなかったんだな……ありがとう。


「ミオくん、大丈夫……?分かる?」


「――はい、分かりますよ……ミーティアさん」


 すっと泣いていたんだろうな。

 目が充血して、真っ赤だ。


「少し待っててねミオ……お父さんとジルさんを呼んでくるわっ」


 レイン姉さんが部屋を出ていった。

 病室なんだろうな、ここ。


「……」

「……」


 き、気まずい。

 そうか、そうだよな……俺、あの時結構な事を言ってはずだ。

 完全に素で話をしてたし、叫びまくってたからな……幻滅だよ。


「ミーティアさん」


「え……な、なに?」


 こっちを見てくれない。

 怒ってるのか?それともやっぱり、幻滅した?

 せっかく好意を向けてくれてたのに……最低だな、俺は。


「すみませんでした……僕、夢中で……多分、失礼なことを沢山言ったと思います……嫌いに、なりましたよね」


「そ!!」


 そ?


 あぁ、また顔をらす。

 そこまで見たくない、んだよな……きっと。


「そんなこと……ないの。でも、でもね……今は、ミオくんを見れないわ」


 だ、だよな。あの時の俺、完全に別人だもん。

 転生して十二年、優等生のいい子の皮を被って来たんだ。

 ミーティアさんと出会ったのだって、猫被ってた時だしな。

 それが裏目に、というか……彼女を傷付ける事になるなんて。

 考え物だな、ロールプレイ。


「そう……ですね」


「で、でも……!私は……す、好き……だから、ミオくんが……!」


 いいんだよ。無理しなくて。

 でも、出来れば関係は保っていたいな……今後も、そのまま利用するつもりでいいからさ。

 俺が君を応援したいのは、変わらないんだから。


「あと……ミオくん」


「……はい?」


「えっと……ミオくん。あのね……私のことは……呼び捨て……にして?」


 ベッドに横になる俺だが、ミーティアさんの顔をのぞく。

 ん?なにその顔……なんでそんなに赤らめてるん、だ?


 それに、なに?

 呼び捨て?……ミーティアさんを?


「いや、でも……僕は年下ですし、あの時だって、本当は夢中で」


 ミーティアさんは俺の腕に優しく触れながら。


「――そ、それでもいいの!今からでもいい!ミーティアって、ミーティアって呼んで!!」


「え、え?」


 ちょっと待とう、落ち着こう。

 えっと……ミーティアさん、いやミーティア?そう呼べばいいのか?

 でもいいのか?生意気だって思わない?


「ね?いいでしょ?」


「えっと……じゃ、じゃあ……ミ、ミーティア」


 ボフゥゥゥゥゥゥゥン――!!


 えぇぇぇっ!ミーティア!?

 顔面が爆発したんだが!?


「――ミーティア!?ど、どうしたの?」


 ほほだけじゃない、耳まで赤いぞ。

 滅茶苦茶赤いんだが……こ、この子、もしかして。

 素の俺のほうが……好みだったりします??


 見られたくないからか、ミーティアは布団に顔をうずめる。


「――ミ、ミオっ!こ、これでお相子だからっ……決まり!今日からミオって呼ぶから!」


 そんな布団に向かって言われても。

 若干聞こえにくいし……でも、そうか……よかった。

 嫌われた訳じゃ、なかったよ。

 

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