2-104【家族】



家族ひかり


 ドサリ――と、地面に倒れたのは、ダークエルフの騎士……ジェイルだった。

 俺は、コイツを殴った血だらけの左腕を、そのまま天に突き上げた。


 勝利のポーズだよ……馬鹿野郎。


「へへ……お、っと……」


 だが、俺にも限界が来たようで、フラフラと足元が覚束おぼつかない。

 思い出されるのは、魔力と体力は並行すべしという言葉……ジルさんの教えだったな。

 その魔力が、底を尽きたんだ。


 ぐらり――と、俺は後ろに倒れていく。

 もう、意識朦朧いしきもうろうだわ。


 あーやばい。頭打つかもしれん。

 とか思った俺だったが……なにか……柔らかいものに支えられた。


「――ミオくんっ!!」

「――ミオっ!」


 抱きしめるように、俺を優しくて抱き留める二人の女性。

 ミーティアと、ジルさんだ。


「――は、ははは……ジルさん、動けたんすか?」


「馬鹿者……しゃべるな……」


「ジルリーネ……ミオくんは」


「平気ですお嬢様。左腕は……治療が必要ですが、その他は魔力が無くなっただけです……ご安心を……――!?」


 ジルさんの身体が強張こわばる。

 前方を見ているな……俺も。


「……――!う、うそだろ……?」


 俺は無理矢理身体を起こし、それを見た。


 それは……ジェイルだ。ジェイルが立ち上がっている。

 俺の何倍もダメージを受けて、身体が穴だらけなはずなのに……内臓だってボロボロのはずだ。


「……ぐふっ……かはっ……俺は、命令を……!」


 なんなんだよ、その命令をした奴は。

 ……そこまでしてしたがわなければ駄目だめなのかよ!


「ジェイル……もうよせっ!それ以上は、マナが崩壊するぞ!」


 マナ?崩壊?

 魔力の事か?


「ジル、面白い男を見つけたな……まだ、子供だが……そいつなら、きっと……」


「――よ、よせっ!ジェイル……!」


 な、なんだ……?

 何をしようと……――


 俺もジルさんもミーティアもが、固唾かたずを飲んだ。

 しかし、ジェイルは――


「がふっ――」


 血反吐ちへどを吐き……ぐらり――と、今度は前方にぶっ倒れた。

 動かない……まさか、し……死んだのか?


 いや、俺はそこまでは……そんなつもり。


「安心しろミオ……お前と同じ、魔力が無くなったんだ。ミオの攻撃を防ぐのに、ほとんどの魔力をいたんだよ……」


 そ、そうか……死んでないなら、それでいいや。

 俺だって、人殺しになる為に転生したわけじゃ……ないんだからな。

 あー駄目だめだ……安心したら……意識が……もう……


「――ミオくん!!」

「――ミオ!」


 聞こえてるよ、ちゃんと……ミーティア……ジルさん……サンキューな。





 家族――俺にとっての光だ。

 あの影の中で、それをつかめたのは……いつも首から掛けている、お守りのお陰だ。

 三歳の時に貰った誕生日プレゼント……【キール貝】を首飾りにしたものだ。

 ちゃんとお守りとして機能してたよ、レイン姉さん……ありがとうな。


 家族の事を、ジルさんの事を……あいつが痛めつけなかったら。

 きっと俺は、あの男によって誰かのもとに連れてかれていたと思う。


 失敗だよ、あんたの……俺は前世で出来なかった事を、今世で実践しただけなんだ。

 ああ、そうだよ……家族は、大事にしないとな。

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