2-103【それはオーロラのように、輝く光】



◇それはオーロラのように、かがやく光◇


 俺を見上げるジェイルの顔が、初めてゆがんだように見えた。

 天に立つ俺を見て、魔法を使おうとしているのか、小さい動作が行われた。

 だから、俺はいきおい良く飛び出す。空を駆けて。


「――行くぞっ!!」


「なんだとっ……なんだその魔法はっ!?」


 悪いな、魔法じゃないんだわ――これ。


 能力――【極光きょっこう】。

 正式な名前は【whiteホワイトarouslアラウザルofオブauroraオーロラ】。

 ごめん。なんのこっちゃ分らんかった。

 でも、オーロラはわかるよ。今も俺の両手足にかがやく光だ。

 俺は……オーロラをまとっているんだ。

 幻想的で綺麗……とは言えないんだよな。

 何故なぜならば、一瞬で見えなくなったから。


「――魔法なんてさせねぇって!」


「くっ……【闇牙ダークファング】!!」


 速攻かよ!これは……影が動いて……突き刺す気か!

 俺を連れて行くんじゃなかったのかよ!!

 それとも、それだけ余裕が無くなったのか!?


「うぉらぁっ!!」


 俺には向かって来た黒いかたまりは、光をまとった拳でぶん殴ってやった。

 その瞬間……消滅する影の牙。


「――この男……何者なんだっ!!」


 悪いね、ただのガキだよ!!

 あとな……俺の名前は――


「――ミオだっ!!」


「な、何っ!?」


 何者だなんて、誰かに称えられるような称号は、俺にはまだねぇんだよ!


「俺はただのミオ・スクルーズだ!!農家の息子だっ!!――くたばれぇぇぇぇぇぇ!!」


 向かってくる全ての影を殴って落として消滅させて、俺は天を駆けてジェイルに肉薄する。


「――くっ!!」


 ジェイルは影に入り込もうと、下を見た――しかし。


「させねぇって!」


 右手をかざす。

 そこから発生するのは、まばゆい光だ。

 影になんか逃がさねぇよ!!


「――この、子供がっ……調子に……っ!!」


 着地した瞬間、ジェイルは俺の右腕を取った。

 こいつ、無理矢理にでも連れてく気かよ!!意外と脳筋だなおいっ!!


「別にいいよっ!腕くらいなぁ!」


 死なば諸共もろともってなぁ!

 これであんたにジルさんの分を殴れるなら!それだけでいい!!


「人間がっ――!!」


 ボギン――!!


「ぐがっ……いってぇぇぇぇぇ!!けど……なぁぁぁぁ!」


 俺は左腕を、思い切りジェイルの腹目掛けて繰り出す。

 既に距離きょりは一杯だ、いきおいももうない。

 ただのパンチは……ポスンとジェイルの腹、鎧の部分に当たった。


「ふん……これまでだな。その魔法にはおどろかされたが……――!?な、何が可笑しいっ!」


 ああ、そう。俺……笑ってた?

 でもそうかもな。今さ……初めて実感してんだよ。

 転生して初めて、自分の素のまま戦ってさ……戦闘って――面白いなってさ。


「――これまでなのはあんただよっ!ジェイル!!……これが、俺の一撃だ……始めにお前がけた……その一撃だぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「な――に……――ぐふぁぁっ!!」


 ビシャッ――と、俺の顔に降りかかる……血。

 ジェイルの吐血だ。

 それと同時に、俺の左腕もズタボロになっている。


 俺は、あるものをパンチした左手ににぎっていたんだよ。

 影から出た瞬間に、それをにぎったんだ。

 それを【無限むげん】で超硬化ちょうこうかさせ、突起にした。


 どこにでもあるもの、落ちているもの、それが……この公園には山ほどあるんだ。


 そう……砂だよ。

 にぎった砂一粒一粒に、俺は【無限むげん】を使ったんだ。

 もう、脳汁ドバドバ……魔力って言うんだろうな、オーバーワークだよ、まったく。


「――へへ、砂でもこれだけの数が刺さりゃ痛てぇだろ、俺も痛い……砂の痛覚の数値も――何倍にもしたからなぁ!!」


 砂一粒の攻撃力は、皆無かいむに等しい数値だった。

 それを無理矢理書き換えて……剣と同じ程度の数値にまで上昇させてやったんだ。


「ぐはっ……ごふっ……き、さま……何を、したぁぁあ!!」


「――死なば諸共もろともっ言葉があってなぁ!俺の腕ごと……お前を倒すためのえさにしたんだよぉぉ!!」


 砂の針は、俺の手ごと貫通かんつうして行っている。

 ああ、俺だってもうめちゃくちゃ痛てぇよ!


 でも、俺は腕だけだ……あんたは違うだろ!?

 腹に足に、内蔵に骨にまで……何千もの砂の針が刺さってんだもんなぁ!

 痛覚数倍だぞっ!?痛いに決まってるさ!


「だから……サッサと気絶でもなんでもしやがれっ!この野郎っ!!」


 今出せる最大の力を込めて、俺はジェイルを押し出した。

 自分の指ごと貫通していった砂の針を、更に押し込んでいくように。

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