2-94【不死の姫2】



◇不死の姫2◇


 陽射しを浴びて、うすい紫にかがやく……とても綺麗な髪。

 一目見たら忘れられないような、深紅……クリムゾンレッドのひとみ

 病だったという事で、少しうつろな表情も、それはそれで神秘的な印象付けになっていると思った。


「綺麗だよね……シャーロット殿下でんか


「……はい」


 ああ、確かに綺麗だな……綺麗だ。

 だが……どこか、なんだろうな……この感覚。

 それを表すなら……恐怖・・だと思ってしまったんだ。

 決して口にしてはいけない言葉を、俺は必死に飲み込む。


(なんなんだよ。あのお姫さまを見てから……さ、寒気がする……)


 寒い……本当に、芯から凍えるようだった。

 死んでいく時って、こんな風に冷えていくんだろうか……って、そうだ。俺は一度死んでんじゃねぇか。


「――覚えておこう。あれが【リードンセルク王国】のお姫様……シャーロット様……」


 俺は、静かにシャーロット様に目を向けていた。

 そして、そのお姫様はというと……うわさを聞いて集まってきた民衆みんしゅうをゆっくりと見渡して。


 ――俺を……見たのだ。

 王女様と目が合ったと、俺が認識した瞬間だった。


 ズギン――!!


「――うぐっ……!!」


「え……ミオくん!?」


 ガクリ――と、俺は膝を着いた。

 左胸を押さえて、滝のような汗を流してだ。


「ミオくん……!ミオくん大丈夫っ!?」


 い、痛ってぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!

 なんだよ!!急に……くそっ……心臓が……爆発するかと思った。


「へ……へい、きです……いっ……て」


「へ、平気そうには見えないよっ!ど、どうしよう……」


 周りを見渡すミーティアさんに、俺は何も言えない。

 そんな余裕がない程、俺の心臓はやばかったんだ。


「――ミオ!お嬢様……!」


「ジ、ジルリーネっ!ミオくんが!」


「分かっています……馬車まで運びます!――っ!?」


 その時の俺には、詳細しょうさいは分からない。

 だがきっと、駆け付けくれたジルさんは……影から見ていたあのダークエルフの騎士と、目が合ったんだと思う。





 詰まらない――詰まらない――詰まらない。

 本当に、なんて退屈な世界だろう。


 でも、この街は少し面白い。

 だって、こんなにもゴミが転がっているじゃない。


 それに……嗅いだことのある臭いがする……いるんだわ……ここに。

 私が求める……獲物ターゲットが。


「――シャーロット殿下でんか……どうでしょう?」


「……詰まらないわね。誰かしらいきなり死なないかしら?」


「おたわむれを……」


 この男……名前は確かジェイル・グランシャリオ……だったかしら。

 褐色かっしょくの肌に長い耳……エルフってやつね。

 くわしくは知らないけれど、どうやら私の護衛らしい。

 騎士団長って言っていた気もするけど、正直どうでもいい。


 私が自我に目覚めた時、このシャーロットって子供の意識は消えてなくなった。

 そう……私は、転生した訳じゃない。

 無理矢理入り込んだのだ、このシャーロットと言う子供の自意識を、食い破って。


 気付いた時、医者から不治ふじの病だったと聞いて、笑ってやった。

 そんなもので死ぬことはないと……不死なのだからと。

 初めは笑っていた医者、それに父親と思われる王冠を被った男……王妃の母親。


 だから、私は花瓶を割って、その破片で自分の首を斬ってやった。

 あれは傑作けっさくだったわ……私におびえる両親、医者……全員が同じ顔をしていたのだもの。


 私は……【不死ふし】の能力を持つ。


 死なないのよ、何があっても……この世界ではね。

 さてと、探しましょうか。

 武邑たけむらみおを……あの日あの時、私を邪魔した……あの男を。

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