2-91【緊張親子】



◇緊張親子◇


 ミオたちが【ステラダ】の街を観光をしている中、ミオの父ルドルフと姉レインは、【クロスヴァーデン商会】の本店におとずれていた。

 そして、その親子の緊張っぷりときたら……ミオが予想した通りだった。


「お、お父さん……き、き、緊張し過ぎよ?コチコチじゃない……」


「は、ははは……お前こそ、嚙み嚙みだぞ?」


 二人は今、待合室にいる。

 実はもう、本契約の時間は過ぎていたのだ。

 先程、会長秘書を名乗る女性がやって来て「急な来客がいらっしゃってしまいまして、会長は遅れそうです……」と言われた。

 それからいくら時間がったか……そのせいで、緊張がピークな親子であったのだ。


「ま、まだだろうか……」


「そうだね。これって、遅い……よね?」


 本来ならば、契約を終えてからミオと合流する予定だったが、大幅に予定が変更されそうだ。

 更にルドルフは今日、村に帰らなければならない。


 その予定は夕方だ。現在は昼前……残念ながら、やはり予定はズレ込むだろう。


 そしてそんな親子の前に、待ち人来たる。


「――ルドルフ殿っ……!」


 バッ――と立ち上がる親子。

 しかしその待ち人……【クロスヴァーデン商会】の会長、ダンドルフ・クロスヴァーデンはというと。


「ダ、ダンドルフ殿……?ど、どうなされたのです?」


 ダンドルフは、物凄い汗を流していた。

 冷や汗のように見える。


「申し訳ないルドルフ殿……大変待たせた上に、これからまた急用が入ってしまいましてな……」


 ダンドルフは、ルドルフに頭を下げる。

 ルドルフは困ったように。


「――あ、頭を上げて下さい……急用ならばしかたありませんっ……機会はまたあるでしょうし」


「お、お父さん……」


 Wドルフの平謝り合戦に、レインは困る。

 そしてダンドルフは。


「すみませぬ。この埋め合わせは必ず……いい形・・・で行わせていただきますので……では、失礼を」


「は、はいっ!どうぞよろしくお願い致します!!」


 最後まで頭を下げていたルドルフは、へなへな~っと椅子にもたれた。

 緊張の糸が切れたのか、もう頼もしい姿は皆無かいむだった。


「お、お父さん……でも、いいの?契約、出来なかったよ?」


「仕方ないさ、ダンドルフ殿は大変お忙しいんだよ。それに、いい形と言ってくれたし、それで充分だよ……」


 それでいいのかとも思うレインだったが、父の優しい性格にはほこりを持てる。


「そっかぁ、うん。じゃあ仕方がないね……帰ろうか?」


「ああ、そうだな。あ~でも、ミオには悪い事をしたかな……せっかく村から来てもらったのになぁ」


「ふふふ……そんなことないよ、ミオはミオで楽しんでるから。昨日も、宿の従業員の方とお話ししてたしね」


「そうか……それじゃあ、帰るか」


「うん」


 こうして、残念ながら……スクルーズ家の野菜の契約は、先延ばしになってしまったのだった。

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