2-90【交易】



交易こうえき


 ミーティアさん……結局、馬車の中では何も言わなかったな。

 何か深い考え事があるんだろうか……そんな、苦しそうな顔だったから、俺も何も言えなくて。

 居心地の悪そうにするそんな俺に、御車席に座るジルさんが、器用に小窓から教えてくれた。


「――昨日な、旦那様とお話をしたんだよ……」


「えっ?」


 旦那様……父親か。

 それで、ミーティアさんはこんなにも悩ましい顔を?

 昨日の今日って事は……契約の事とかか?


さっしてやってくれミオ。彼女も、まだ十五の子供なんだからな……」


 いやいや、それを十二の俺に言いますか?

 まぁでも……なにを言われたかは想像がつく。


「大事な契約ですもんね、失敗出来ない……ですから、お互いに」


 契約をする側とされる側、その双方の息子、そして娘だ。

 緊張もするってものだ。きっとそう。


「……やれやれ。はぁ……」


 え?ジルさんにため息かれた?





「ここは……この街の中央に位置する、交易所こうえきじょです……様々な町や村、他国の人たちまで、多岐たきに渡った沢山の方々が利用しているの……」


 どうやら、ミーティアさんは気持ちを切り替えたんだろうな。

 流石さすがにしっかりしてるよ。


「へぇ……凄いなぁ」


 もう圧巻だった。

 中央通りと呼ばれるこの通りには、様々な店が建っていて、この交易所こうえきじょもその一角だ。

 三階におよぶ階層で、様々な種族の人たちが、その村や町の自慢の一品を持ち込み、売り出す為の交渉が……今ここで行われている訳だ。


 もうさ、村では見れない光景こうけいだらけだよ。絶対。


「あれ?でも、ここは【クロスヴァーデン商会】の建物なんですか?」


 そうだよな。だって国一番なんだろ?凄い建物だぞ?ここ。

 俺が勝手にそう思い込もうとすると、ミーティアさんは笑顔で言う。


「いいえ……違うわ。ここは国が権利を持つ建物で、【クロスヴァーデン商会】の交渉は本店で行われるの。ここより大きいのよ?」


「ええっ!?」


 マジか……すげぇな【クロスヴァーデン商会】。

 国が主導の交易こうえきはこの場所で行われて、【クロスヴァーデン商会】は自分たちで出来るのか……そりゃあもうかるわな。


 でも、だからこそ【クロスヴァーデン商会】は信頼を得ているし、顧客こきゃくも沢山集まるんだろう。

 ここと契約が出来れば、国に利益りえきを取られなくても済むし、国内外に売り出してもらえるんだろ?それって普通に怪物クラスだよな?

 それを国にも許可して貰ってる【クロスヴァーデン商会】って……恐ろしいんだが。


「……じゃあ、父さんとレイン姉さんは、【クロスヴァーデン商会】の本店に?」


 ごくりと……俺はのどを鳴らした。

 その意味を、理解してしまって。


「ふふふ……じゃあ次は、外の商店をみましょうか?」


「あ、はいっ!」


 商店!店だ店!

 世界から集まる様々な物流ぶつうりゅうを見れる!

 好奇心がき立つってもんだよなぁぁぁぁ!!

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