2-89【観光案内】



◇観光案内◇


 酔いを覚ました父さんと、ぐっすり眠って気分爽快のレイン姉さんは、【クロスヴァーデン商会】の本社?に向かった。

 酒はだいぶ抜いたし(無理矢理かせた)、レイン姉さんもついてる。

 きっと大丈夫だろう。


 そして俺は、宿の前でミーティアさんを待っている最中さいちゅうだ。

 普通に緊張するよなぁ……デートみたいでさ。

 み、見れるかな……ミーティアさんを普通に。


 俺の頭の中には、夕日にかがやくアイシアの笑顔が浮かんでいた。

 またあんな感じになったら、落ち着いてはいられない状況になりそうで怖い。


「……ふぅ~」


 息を大きくき、緊張飛んでけ!と気合を入れる。

 と、そこに。


「――ミオ」


 りんとした声は、馬上からだった。

 その馬は馬車をいていた。

 馬に乗っているのは……ジルさんだ。


「ジルさん。おはようございます!」


 そ、そうだよな……誰も二人きりだなんて言ってねぇし。

 一安心なのかガッカリなのか分からない俺の目の前に、ジルさんは馬から降りて、馬車の扉を開ける。


 そこには勿論もちろん


「……おはよう、ミオくん」


「お、おはようございますっ!」


 ミーティアさんが乗っていた。

 昨日とはまた違う、可愛らしいワンピースを着ていた。

 青い髪にえる、緑色のワンピース。

 まるで、紫陽花あじさいのようだと思った。


「……さぁ、どうぞ?」


 乗れって事か……まぁそうか。

 この街は広いんだもんな。

 それに、ジルさんが御者をしてくれるなら安心だし、大丈夫そうだな。


「はい、失礼しますっ」


 俺は、案内されるように馬車に乗り込む。

 うおっ……ご、豪華だな……タクシーなんて目じゃないぞ。


 馬車の内装はとてもっていて、一手間一手間を手作業で行ったと見られる細工さいくほどこされていた。

 なんだっけな……伝統工芸とかにありそうな感じだ。


「昨日はよく眠れた?」


「……はい、おかげさまで」


 本当はほぼ寝てないけどさ。

 そこは見栄を張っておこうとしよう。


「では、行きましょうか……ジルリーネ」


「――はい、お嬢様……ミオ、しっかりと座っていろよ?」


「あ、はいっ!お願いします!」


 そうして、俺とミーティアさんの【ステラダ】観光が始まったのだ。





 馬車の中はとても静か……隣には意中の少年。

 私は、笑顔をたもてているかしら。


「……」

「……」


 車内は無言だった。

 本来なら、窓から見える建物や場所を、丁寧ていねいに説明しなければいけない。

 それなのに、私の心に……昨夜の父の言葉が繰り返される。


『それは本当に恋かい?』


 あの父からそんな事を言われるとは思わなかった。

 ミオくんの村の集会所では、応援してくれるような言葉を貰った。


 だから……私の色恋沙汰いろかいざたなんて興味きょうみがないんだと思っていた。

 そんな父からの言葉に、私は心を殴られたんだ。


『助けてくれたのが他の誰かでも……ミーティアはきっと同じ事を言っただろうね……』


 図星だった。きっと、ミオくんでなくても……言っていたと思う。

 夢の為に、自由の為に……誰かれ構わず、利用しようとしたはずだ。

 分かってはいたのに……事実を面と向かって言われて、私の心はくじけたんだ。


「……着きましたよ。お嬢様」


「……え?」


 もう?目的地は交易所……【月の猫亭】から一時間半は掛かるはずなのに。

 私はどうしよう……と、戸惑とまどっていたかもしれない。

 そんな私の向かいでは、ミオくんが……実に困ったような、苦々しい笑顔を浮かべていたのだった。

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